沖田

□短い夜
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短い夜

嫌いなものは数えきれない位あるのに、なんて考えていた。今は自由に動かない自分の身体が一番嫌いだ。子供の頃は長男として生まれたが跡を継げられないという家が嫌いだったり、近い歳の子たちが嫌いというか苦手だったりしていた。近藤さんと出会ってからはだんだんと楽しいものを知っていけたと思う。あ、でも土方さんは嫌いかもしれない。
…あぁ咽が痛い。吸っても吐いても辛いだなんてどうやって呼吸すればいいんだよと首の皮に爪を食い込ませれば誰かの足音が響いてきた。 誰か、なんて考えなくたって分かる。千鶴ちゃんだ。夜になったのだから早く休めばいいのにいつもいつもお節介にも程があると思うな。
「沖田さん起きているんですか?」
「起きているよ」
「…入ってもよろしいですか?」
「ダメ」
千鶴ちゃんの息が詰まったのが分かった。襖一枚の向こう側に千鶴ちゃんの影が見える。お願いだからそこに居てね。
「女の子なんだから夜遅くに男の部屋に来たらダメ」
そんな適当に思いついた理由を言えば分かりましたと一言残して影は消えた。

……まったく、変なところ頑固なんだよなぁ。

「病人歩かせるなんてどういうつもり?」
襖を開けて見れば案の定千鶴ちゃんは隣の部屋の前にちょこんと座りこんでいた。御丁寧に上着まで着ている姿に大きな溜め息が自然と漏れた。
「僕が気づかないとでも思ったの」
「もしかして朝までそうしていようとか考えてた?」
しゃがみ込んで目線を合わせてみれば千鶴ちゃんは僕の首にそっと手を伸ばして触れた。
「休んでください」
「ここに居るのは誰のせいかな」
「沖田さんは夜が嫌いなんですか?」
噛み合わない言葉のやり取り。なんでそんなことを思ったんだろうと考えていれば再び襲ってきた苦しみに眉を寄せた。沖田さん!千鶴ちゃんに部屋に引きずられるようにして戻される最中、外を飛ぶ小さな光を放つ塊を見た気がした。
夜は、嫌いだよ。
そう答えれば君が抱きしめてくれるから。


091014


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