斎藤

□葉桜
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季節は巡り巡る、変わり目となれば人の目には付きにくくなるがそんな人の心など興味ないというように歳月は過ぎる。なんとも羨ましい生き方だ。俺たち侍は時代という流れには逆らえなかった。長年続いてきたことですらすぐに消え去り悪いものへと変わり果てた。左手に縛り付けるかのように握っていた刀は今は姿形も残っていない。豆が重なり固くなった掌を包んだ手は小さく、柔らかく暖かい両の手だった。

「ここに居たんですか」

そっと手を離そうとした千鶴の手を握れば少し目を見開きすぐに優しく細めて笑った。

「もう春も終わりですね」
「そうだな」
「ふふ、」
「?…どうした」
「一さんはこの葉桜が好きそうだなぁって思ったんです」
「何故だ」

すると俺の手からするりと手を抜いたと思えば地に落ちていた葉と花が付いた小枝を拾い上げ俺の左手に握らせた。少し萎びたような花と生き生きと青を輝かす葉と千鶴を交互に目で見れば理由を聞かずともわかる気がした。

「似合います」
「そうか」
「私はどんな姿の桜も好きです」

今の俺はこの葉桜の様だと千鶴は言いたいのだろう。侍の世が過ぎてもまだ侍で居続けようとする俺と。

「俺もだ」

小枝の桜の花が風に揺れた。




091009


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