Main-T【短編小説】

□失くした物を探し求めた者の末路
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人は海へ行きたいと云ったが、
空へ行きたいとは
云わなかった。



それが、「死」を
意味していたから。


だから、
誰も口にしていないのだ。



虚言に過ぎぬ。
人は嗤う。
だが、私は信じた。
空へ行けると。



「空を飛ぶ」とは
また違った意味だ。


私は空を飛んで地上を
見下ろしたいわけではない。



あくまで「空へ行きたい」。


それは死を意味するのか、
私自身でさえ分からない。


地上よりも遥か遠く、
上にある空。




其れは私が掴むのだ。






母の眠りを妨げてはならぬ、と
祖母に言いつけられた。



あれは幾つの
時だっただろうか。


まだ髪が長く私が背中に
手を回しても
手が届くくらい髪が長い頃。



黒のツヤツヤな
人形のような私の髪。




― 母さんは、どうしたの ? ―


祖母にそう尋ねると、
祖母は眉に皺を寄せて、
厳しい顔をする。



怒っているような、
しかし何処となく哀しい表情。


それから私の頬に手を
すり寄せてコッソリと答える。



柔らかな母によく似た声で、


こう云った。






― 空へ 行ったのよ ―






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