Main-T【短編小説】

□傘がない話
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「傘がない・・・。」


そう先に呟いたのは、
隣に立っている
咲江さんだった。


どうやら、傘が
盗まれたらしい。


私も同様、今朝在った筈の
傘がなくなっていた。


きっと誰かがこっそりと
盗んでいったのだろう。


迷惑な人が居るものだと
呆れていると咲江さんは顔を
真っ青にして今にも
泣き出しそうな顔をしていた。

励ますつもりで、
私は声を掛けてみる。

「…咲江さん、
私も盗まれたみたいです。」


咲江さんはその言葉に、
さっきとは打って変わった
表情で微笑んできた。


彼女の微笑んだ時に
出来る笑窪を見て、
少しときめく私・・・。


「雨が止むまで
待つしかないよね…。」

「咲江さん、
其れは名案ですね。」


私は話す時に
何かと最初に、
人の名前を付けて
しまうのが癖だ。


咲江さんは下駄箱の
段差に座り込む。


私も続いて、
咲江さんの隣に座る。


二人でこうして
一緒に居るのは思えば、
初めての事だ。


咲江さんは私とは
反対の性格の持ち主。


国語の成績が良くて、
眼鏡を掛けていて、
何時も大人しい人達が
集まるグループに入っている。


云うならば、地味だ。






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