Ether
□ 真っ赤な嘘
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次に目を開け、一番最初に瞳に飛び込んで来たのは、何処かの路地裏。真っ暗なので、夜だとわかる。
何があったのか全く理解できないでいると、物陰で何かが身じろぎした。
「だ、誰かいるの・・・・・・?」
震える声で暗闇に向かい、問い掛ける。そして、その物陰からも問いが返ってくる。
「ソコニ・・・・・・誰カ、イルノ・・・・・・カイ・・・・・・・・・?」
返って来たのは、虚ろな人間のものとは思えない声。それに対し、雫は間抜けな声で問い返す。
「へ・・・・・・?」
数秒おいて、また闇が動いた。
「イル、ン、ダネ・・・・・・?ソコニ、イル、ン、ダネ?動カナイデ・・・・・・今、ソッチニ行クカラ・・・・・・・・・」
そして、街灯の光の輪の中に得体の知れない物が姿を現した。そこに現れたのは、外見は普通の男性だった。
男は雫の姿を認めるとニタァっと、おぞましい笑みを浮かべた。
背筋を冷や汗が伝う。怖い・・・・・・、本気で
怖い。雫の胸を恐怖が支配する。
「ウワァ・・・・・・、二ヶ月ブリノ、人間ダァ・・・・・・。キミ、誰カトココニ来タノカイ?」
「い、いえ・・・・・・、一人、です、けど・・・・・・」
「ソウカイ、ソウカイ・・・・・・ソレジャ、早速
デ悪インダケド・・・・・・死ンデクレル?」
気味の悪い笑みを浮かべ、その男は雫に向かって突進して来た。
逃げなければならないのはわかっているのに、体がそれに反応しない。
男の顔が雫の目前に迫った。
人間の物とは思えない狂気に染まった、恐ろしい笑み・・・・・・。
―殺される・・・・・・!
ぎゅっと目を瞑った瞬間、
「ウ・・・・・・ギャァァァァァァァァ!!」
凄まじい、獣のような叫びと発砲音が響いた。目の前で、血しぶきが上がるのではなく、その男性が金色の光りとなって四方八方に飛び散った。
恐ろしいのと驚いているのとが綯い交ぜになって、雫はその場にへたり込んでしまった。
へたり込んだままその漂っている埃の様な物を見つめていると、目の前にロングコートを着た少年が現れ、拳銃を構えた。
「黒鍵、ダストを回収する」
透き通った声が響くと、少年が持っていた拳銃の銃口にその光り輝く物は吸い込まれて行く。
「・・・・・・え?」
呆けた顔でそれを見ていると、少年が雫に近づいて来た。街灯の灯りの下に来ると、その顔が顕わになった。
そこに立っていたのは、雫と同い年くらいの黒髪の少年だった。
瞳の色は海のような深い青。その色から察すると、日本人ではなさそうだ。加えて、少年が身につけている衣服は闇のように黒いロングコート。
そして、少年の手には街灯の光を反射し、鋭く黒く光る拳銃が握られている。
雫が呆然となって少年の事を眺めていると、少年が雫の目の前に立ち、口を開いた。
「この時間帯になったら、ここら辺はうろつくなって言われなかったか?」
少年の問いに、かぶりを振る。
それに対し少年は溜息をつく。
「お前みたいな奴が最近多いから困んだよ・・・・・・。こっちの身にもなれっての」
すると少年は雫に向かい、手を差し出した。突然の行動に雫は、少年の顔と差し出された手を交互に見る。
「早くしろ。それとも、自分で立てんのか?」
やっとその意味を理解すると、急いで手を握り返した。
少年は雫を立たせ、仏頂面で言った。
「じゃーな。この時間にはもう彷徨くなよ。それと、俺らの仕事増やすんじゃねぇぞ。面倒臭ェんだよ」
そう言い終わるや否や、少年はその場から立ち去ろうとした。雫は、ボーッとしたまま見送ろうとしていたが、我に返ると咄嗟に少年の腕を掴んだ。
「ま、待ってっ!」
少年が訝しげに振り返る。