猛々しい薔薇を
□苦、時々酸味
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僕の名前は林田林檎。
ひらがなでは、はやしだりんごだ。よく読み間違えられたりはあるのだが、断じてりんだではない!
僕は、この今日からたったの3週間だけ。とある高校で実習生をすることになったんだけど。
小さい頃から、ずっと夢見ていた教師なんだ。今日がその教師になるための第一歩!緊張からなのか、さっきから心臓がうるさい。
「緊張してきた……」
何事も抜かりなくやっていきたい。というか生徒になめられやしないかというところが心配なんだ。
なぜこう、よりにもよって絶賛不良中の高校が実習先なんだ。僕はこんなに不幸体質だったのか!?
それに男子校だなんて。僕は一日目でこんなにも滅入っていた。
僕は担当の教室の目の前に立っていて、息を殺して待っている。
別に何かして立たされているわけではなく、その教室の教師に待っているようにと言われたからだ。
そしてちらりと教室を盗み覗いてみる。こ、こりゃぁたまげた。
黒い髪の毛なんてありゃしないじゃないか。逆にちかちかと明るい髪ばかりが目立っている。
ひいいいい!!怖いったりゃありゃしないよ。これじゃ命がいくつあっても足りゃしない。
「……リーゼントとモヒカン」
ぼ、僕は、まさかまさかの過去の時代にでもタイムスリップでもしてしまったのだろうか!?
「……ということで。お前ら、実習生といっても役職は教師そのものだからな。てなわけでよろしくやるようにな!!わかったか?」
と体つきが幾分ごつめの担任の橋本先生がそうやって促すと、大半の生徒がだるそうに返事をした。
おやおや?ちらほらと真面目に声をあげる生徒もいるようだ。
よさげな子もいるんだなと僕は少しだけだけど、安心はできた。
「まったく……お前らのいつものだるそうな返事はこの際大目に見てやるからな。さぁて!先生、入ってきてください!!」
本当にいきなり僕に話しかけてきたので飛び上がるほどに驚いた。
「う、えっ、はっはいぃ!!」
そして僕は緊張気味に扉を情けないけど、震える手で開けた。
生徒全員がこっちを見て、大半が歓声に近い叫びをあげた。
「うおっ!なんだよ超激マブじゃん、女じゃないのかこの教生!」
と赤色がちかちかと眩しい立派なモヒカン姿の少年が、目を輝かせながら僕を指差していた。
「げ、激マブだって……!?」
な、何でそんな古い言葉を今時の高校生は知ってるんだよ!?
しかも激マブ!?激マブって!!
やけに騒がれていることがなんとなく気恥ずかしくて、震える手でチョークをつかんで自分の名前をさっと黒板に書き込んだ。
「あ?り……りんだりんごぉ?ギャハハハ!超変な名前!!」
と先程のモヒカンが間違えて読んで、瞬間的に周りが爆笑の渦に飲み込まれてしまった。
必死に違うと言ったのに、僕の名前……というかあだ名はまさかのりんだに決まってしまった。
な、なんで一日目で、しかも午前だけでこんなにドタバタしなきゃならないんだよぉ!!
「ふぅん、林檎ねぇ……。甘酸っぱい名前じゃないか……」
と誰かがポツリと呟いた言葉は僕には聞こえなかった。
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