女々しい百合を
□石ころと宝石
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私は、貴方みたいにはなれないのだ。だって私は、貴方みたいな純粋な存在ではないのだから。
貴方が皆が宝石店で一目見たら飛び付く程に純な宝石だとしたら。
私は道端にぽんと落ちている一粒の汚ならしい石ころに過ぎない。
……そう、私を見ている人は一人だっていやしないのだ。道端を隅々まで見渡すように歩く人間なんて、誰一人いやしないのだ。
私はこんなにも薄暗い毎日を送っているのだが、自分の名前が皮肉にしか見えないのだ。
日野 光
これは ひの みつ と読むが、昔は散々名前でからかわれた。
お前は闇だろうとか、性格と真逆だろうがとか、中学生時代には嫌という程に言われ続けてきた。
中学生というモノは、そういったところにはやけに敏感で、人を容易く傷つけるモノなのだ。
それに初対面の人には名前を確実に間違えられるし、この名前に感謝なんてしたことは一度もない。
自分がもっとプラス思考ならよかったのか、と思ってみたりする。
「……はぁ」
そんな私も、まさかの、もう高校三年生になってしまった。
たくさんのことをグルグルと頭の中で考えているうちに、たった一つの複雑な迷路が完成した。
その迷路は、入り口はあるのに出口は一つも見当たらない。絶対に終わらない、理不尽な迷路。
これは自分自身の心なのかもしれない。心の解決策が見えない心を具現化してみせた結果なのか。
それに周りも本当に暗くて、目の前も見えないような迷路なのだ。
すると、その迷宮入り直前の迷路にすっとやわらかい光が射した。
「……おやおや、みっちょんではないか!!今日はなんだかご機嫌ななめな感じみたいですね!?」
とやけに間の抜けた声の主。地毛でも茶髪染みた明るい色の髪の毛が、やけに眩しく感じられる。
ボブカットの髪の毛は、そんな彼女をさらに引き立てている。
黒目もとてもくりっとしていて、これでもかという程にまん丸で。
同性の私ですらも、可愛らしいと思えるような女の子だ。
「あぁ、何でもないようさぎ!」
彼女の名前は、星山兎だ。
ほしやまうさぎと読む。
この名前は、彼女の性格にも素晴らしく一致していると私は思う。
彼女は、いつも忙しなく辺りを飛び回っているイメージがある。
自分の周りをピョンピョンと飛び回っている彼女を思い浮かべ、思わず喉がくくっと二回鳴った。
すると彼女はまたそこに食いついてくる。本当に楽しい友人を持ったものだと他人事のように思う。
「おぉっと!?みっちょんが思い出し笑いか!珍しいです!そんな珍しいみつさんの顔をカメラをズームして見てみましょう!!」
と誰に向かって言っているのかわからないけれど、彼女は一生懸命に自分の事を実況してくれる。
それに苦笑はしていたけれど、これには流石に驚いてしまった。
「……あ、あのさぁ……うさぎ。ちょっと近すぎやしないかな?」
鼻と鼻のてっぺんが触れるほどの至近距離。初めての距離に私はまた珍しくもどぎまぎしてしまう。
ニコニコしながら近づいたうさぎの吐息がふわりとかかる。軽く香るのは苺の様な甘酸っぱい香り。
あぁ、酔いそうだ。
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