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□絆を結ぶ絶対の誓約
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「・・・・はぁ?新しい従者、ですか」
それは、シトを見つけてから、3日後の事だった。
シトはあのままでもいいと、つまり、あのまま俺だけに知られたまま、誰にもその姿を見せずに過ごしてもいいと言っていた。
最初からそのつもりでいたとも言っていた。
だけど、俺が嫌だったんだ。
だから、考えて考えて考えた結果、俺はこうする事にした。
「あぁ、今日から俺の世話係兼、護衛として母上たちに雇ってもらった。」
我侭を聞いてもらったわけだが、今の俺にはこれが専売特許というわけで。
あのままここに置いといて、誰かに見つかりでもしたら(本人は絶対そんなことしないっていってたけど)、と言うのを考えたら、これが一番いい方法だと思った。
これで堂々と屋敷にいれるし、堂々と、夜だけではなく、あいつに会える。
「え、と、それは既に、決定事項、というわけですか?」
目の前にいる人物が、うろたえた様に聞いてきたので、俺は簡潔に「そうだ」って言ってやった。
「しかし、世話役は二人もいらないのでは・・・・・俺では不満でしたか?ルーク様」
「あー不満だな。」
俺は何のためらいもなくそういってのけた。
すると、案の定、焦ったような顔をしてどこが悪かったのか聞いてきた。
「・・・言葉」
「・・・・・・・は?」
「だぁかぁら、それだよ。その敬語口調。止めろっての。」
「・・・・・へ?それだけ、か」
俺が返事代わりにキッと睨んでやれば、どこか安心したように苦笑すると、今度はちらりと俺の隣を見た。
「俺的には、一応第一印象をよくしようとしてたんだけどな〜」
というか、対抗心かもしれないけど、なんて呟きながら自分の茶金の髪を掻いた。
そして右手を差し出す。
勿論、俺ではなく、俺の隣にいるやつに。
「俺はガイ=セシルだ。知ってると思うけど、ルークの世話係兼護衛兼親友だ。こいつの世話は骨が折れるかもしれないが、ま、仲良くやっていこうぜ。」
ガイの茶色いグローブに黒いグローブが絡む。
俺はそれをただぼうっと見ていた。
「・・・よろしくお願いします。私は、シト=ライナーです。シトと呼んでください。」
「じゃ、俺はガイな。」
二人がそれぞれ自己紹介を終わらせると、ガイは仕事があるからと部屋を後にした。
残った二人は、ゆっくりと視線を合わせる。
「彼が、ガイ、ですか」
「んぁ?なんだよ。別に知り合いとかじゃないだろ?」
じっと見つめられながら聞かれたルークは、少し落ち着かないように聞いた。
「えぇ、私に知り合いなどいませんからね。ただ、どんな人物か、ずっと気になっていたので」
「ずっと・・・・って、お前いつからここにいたんだ?」
正直ずっと聞きたかった。
逢って、今日で3日目。になるのだが、昨日とその前は、今まで通り、夜しか会うことが出来なかったのだ。
この通り、何もない毎日でも、睡眠を欠く事は出来ない。
そんな事をして、次の日に体調を崩すなど、してはならないから。ってのは、勿論シトの台詞なわけで。
とにかく、俺は何もコイツの事をしらないのだ。
「いつから・・・・ですか」
俺の問いに、若干困ったような、それでいてどこか悲しそうに表情を歪めた。
・・・・悲しそうに?
「そう、ですね。ルーク様は、私がはじめて、いえ、貴方がはじめて私と逢った時、最初に私が言った言葉を覚えていますか?」
俺は、そう言いながら笑いかけてくるコイツを、じっと見て伺ったが、さっき感じた感情は欠片も見られなかった。
気のせいだと、思った俺に、シトが言い直した事の意味に気づくはずもなくて。
「・・・・最初って、あれだろ?お前が名乗った・・・・」
忘れるはずもない。忘れるはずがない。
あんな、何かが込みあがってくるかのような(思わずぐっと押し込めたけれど)、初めて感じた感覚。
驚きとは別の、別の何かを、感じた。
「覚えていて下さっているんですね。良かった。・・・・それが、私の答えです」
ルーク様。そう小さく、俺の名を呟いたコイツに、俺は思わず赤面しそうになった。
何故?そんなの俺が聞きたいくらいだ!!
何故、なぜ、なんで・・・・
(そんな、愛しそうに、俺の事を呼ぶ、の)
頭が、混乱しそうだ。
俺は、そう、ある誘拐事件以来、記憶喪失ということもあって、表向きは保護と称して、“軟禁”状態。
それ以来、ずっと、もう5年間ずっと屋敷の外へ出ていない。
その間に、俺の事を、こんな風に呼んでくれたのは、何人くらいいただろうか。
父でさえ、もう半年は逢っていない。
・・・・・なんて、思ってすぐに思考を停止した。
「・・・ルーク様、私は、ずっと傍にいます。今までも、そして、これからも」
「・・・・・今までも?」
それは俺の考えていた事に対して言っているのか、と思うくらい、その言葉は頭の中に響いた。
でも、今はそんな事ではなくて・・・・
「今までも、って、お前本当にいつから・・・」
再び問い質そうとしたが、そこで止めた。
もう、自分の中に答えはあるし。
何より、聞いたところで、また抽象的な、遠回しな言い方で返されるのだろう。
でもそれは、曖昧に答えてる訳ではない。
(お前の唄、いつも聞こえていたのに)
いつも、誰の声だろうと思っていた。
俺は、こんな生活の中で、ぐっすり眠れるはずもなくて。
嫌な夢を見た時、いつも、この唄が、助けてくれていたのに。
(こんな近くにいたのに、俺は気づかなかった)
この、瞳と髪が漆黒の男は、きっと旗から見たら大馬鹿野郎だ。
ここまで、他人のために時間を無駄にするやつも早々いないだろう。
本当に、どこまでも、馬鹿で、
どこまでも、やさしい
「お前の言葉、“信じる”よ」
それが俺の、心からの感謝の証。
絆を結ぶ絶対の誓約
(ありがとうとは、口が裂けても言えないから)
end→(イラあり注意)