魔王

□白羽
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飛んでいくよ、と彼は言った。

【白羽】

もうすぐ羽根が生えるんだ、と彼は言った。大きな黒色の目を眇めてころころと楽しそうに笑う。


「お袋がさ、なんか呪いだか念力だかを妊娠中に胎児に送ったらしくてさー、その胎児は俺なんだけど」


勝利の時に生えなかったからさらに念を込めたのかもねー、と笑う。自分よりも一回りも二回りも小さく細い背中は傷もなく綺麗だ。

自分の傷だらけの体と比べたらなんて美しいんだろう、と思う。

ベッドに腰をかけると彼は頬を膨らましてバンバンッと自分の隣を叩いた。


「あんたの場所はこっち」


肩にシーツをかぶせただけという格好。膝をついて彼の隣に座ると満足そうに見上げた。


「羽根が生えるんですか?」
「うん、触ればわかるよ」


そう言って背中を向けた。その背中にはさっきの行為の後がくっきりと残っている。
白い背中に艶めかしく所々に咲く赤い痕を触る。


「・・・・・・そんな下から羽根が生えるわけないだろ、肩甲骨だよ、肩甲骨!」
「すみません」


クスッと笑い改めて肩甲骨の下をなぞるように触れば、さらりとした感触が指の先に残る。


「わかった?」


くるりとした大きな目でこちらを見た彼にちょっと困った顔を向けた。


「もー、今触ってる所!ピンポイントだぞ!」
「そう言われましても・・・」


形の良い肩甲骨はくっきりと浮かび上がる。
下にできた窪みを触る。


「ここから生えるんですか?」
「そーだよ!なんだろー、コッヒーみたいな羽根かな?それともやっぱり魔王だから真っ黒?」


どうやら彼の中に天使の羽根は候補に無いらしい。
真っ白な羽根を付けた名付け子はまさに天使だろうに。

背中から指を離し、彼の肩を抱いて引き寄せた。


「服は着なくて大丈夫ですか?」
「平気」


ぎゅーっと引き寄せた力以上に抱きしめられ思わず微笑む。



「だってコンラッドが此処に居るからっ!」



そんな言葉に簡単に舞い上がってしまう。
シーツを自分にもかけて彼を抱きしめて横になった。


さすがに体を動かした後で疲れていたららしく彼の目は半分まぶたに覆われていた。
「眠いですか?」
「・・・・・・ぅん」


舌っ足らずに答える姿が何とも愛らしい。
それからにこにこと笑い唇を開いた。


「羽根が生えたらね、アンタに一番に見せてあげる。それであんたが何処に居ても見つけて飛んでいくから」


そう言うとすぐに静かな寝息をたてはじめた。

薄い胸板が上下する。その可愛いらしい寝顔に自然と頬が緩んだ。

額に唇をひとつ落として、それでも目を覚まさないのを確認すると静かにベットから出る。


軍服をきっちりと来て剣を横に携え部屋を後にした。






ベットの上でぱちりと黒い瞳が開いた。

シーツをキュッと握り締め小さく唇を動かす。




「そしたらもうコンラッドが何処に行っても大丈夫だよ」



それはまるで自分に言い聞かせているかのようだった。


小ささすぎた呟きは静寂に包まれる部屋に溶けて消え彼の人に届かなかった。





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