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□冬の日
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【冬の日】

忘れもしない、あの冬の日。
どうしてあの時私は、何も言わなかったんだろう。



「あかりさ、バイト辞めるって本当?」

バイト先で友達になった泉と映画を観に来た。
もちろん相談したい事があったから。

「店長から聞いちゃった。本当なの?」

泉は指輪をクルクル回しながら私を見つめている。
そんな泉の問い掛けに私は答える事が出来ずにいた。
相談する前に先手を打たれちゃったもんだから…。

「どうして相談してくれなかったのさ」
「ごめん」

知ってるんならもういっか…
そう思って席を立った。
泉も、もちろん着いて来ると思って。…声もかけずに。


外に出ると雪が降っていた。

「わぁ…どうりで寒い訳だ…ねぇいず…」

寒さで震えつつ振り返ると、いるハズの泉がいない。

「…泉?」

あたりを見渡したけど泉の姿は見つからない。
探す気になれなかった私はそのまま一人で帰る事にした。

…その時もっとちゃんと探していれば、
多分、後悔なんてしなかったんだ。



あの日から泉とは会ってない。
バイトも辞めたし。
今でもそこで泉が働いてるって聞いたけど、私は会いに行かなかった。
黙っていなくなった泉の事、ほんの少し怒ってたし、今更…とも思うから。

正直あの日泉が着いて来なかった理由、今なら分かる気もする。
お互いに些細な意地の張り合いしてたんだろうな…きっと。



それから何年かして、私は結婚した。
泉の事、忘れたフリしてたけど本当は気にかかっていた。…気の強い娘だったけど、実は泣き虫だった泉。一番に『おめでとう』って言って欲しかった友達。だけど今更…そう考えると溜息しか出てこない。

ブルーになりつつ友人からの手紙を広げていると、一通だけ何も書かれていない封筒が出てきた。

何気なく中身を出して読んだ私は愕然としてしまった。

 =結婚、おめでとう。幸せにね=

泉からの手紙だった。
名前は書いてないけど字で分かる。
嬉しいハズなのに切なくなった。
あの日の事を激しく後悔した。
どうしてあの時泉に何も言わなかったんだろう。
泉が婚約したって事、店長から聞いてたのに。
『おめでとう』って…
どうして言う事が出来なかったんだろう。

大切な、友達だったハズなのに。

子供だった私達。
素直になれずに大切な友達を失った。

…end…


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