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□優しさの意味
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【優しさの意味】

「結局…言ってくれなかったよな、お前」

溜息まじりにそうつぶやいた彼を横目に、
彼女は大きく深呼吸をして窓の外に目を移した。
そして…ー。


周りが不思議に思うカップルが誕生したのは冬も終わりの頃。
誰にでも優しい自他共に認める"いい人"池田広人。
一方、何を考えているのかいまいち分からないマイペースの"無自覚天然"原秋子。

秋子の天然っぷりに広人はドン引きし、優し過ぎる広人の性格に呆れ果てていたハズの秋子。
なぜこの二人に恋愛感情なるものが芽生えたのか…
二人の友人達の話題が尽きる事がなかった。

「原さんってさ、天然だよね」

秋子がボーッとしている所に突然広人が声をかけてきた。

「いや…フツーだと思うけど」
「いやぁ〜そーゆうトコ…何か違うんだよなぁ」
「…池田君は私の何を知ってるの」
「何も知らんけど。見てて変わってるなぁ…と」

(天然と変わってるって別じゃない!)

ニコニコしながら語る広人に秋子は顔をしかめた。
池田広人。男女構わず誰にでも優しい奴。
友人も多かったが、秋子はその優し過ぎる所が嫌いだった。

「池田君。いつかあなた痛い目に遭うわよ」
「な…何だよ…いきなり」
「別に。忠告しただけ。誰にでも優しいのって罪だよね」

ズバッと言い切る秋子に広人も顔をしかめた。
原秋子。相手の心にズカズカ入り込み言いたい放題なんでも言葉にする女。
その割にどこか抜けていて天然ボケな秋子は嫌われる事もなく、逆に誰からも好かれている奴だけど広人は秋子の人間性が正直苦手だった。

「……………」

お互いに気まずい空気が流れる中、広人は手に持っていた物を秋子に渡した。

「…何?これ」
「今日誕生日なんだってな。さっきコンビニでお前のダチが言ってたから…よかったら食べてよ」

中を覗くと、コンビニ限定のお菓子が二つ入っていた。

「ありがとう…でも…何で…」
「何でーって、原さん今日誕生日なんでしょ?」

そう言って笑うと何事もなかったかの様に爽やかに席から離れて行った。

「…誕生日だから…って…アイツは誰彼構わずプレゼントする訳?…バカみたい」

思わず秋子が口にした言葉。
しかしこの出来事が二人の間にあった微妙な距離感を少し変化させる事になった。


秋子の誕生日をキッカケに広人は度々秋子にちょっかいを出す様になった。
そんな光景を見た友人達が広めた噂が本人達にも届いていた。

「そーいやぁ…聞いた?あの噂」
「あはは。私と池田君の事ね」
「笑えるよなぁー。けど原さん否定しないんだ?」
「池田君こそ…。違うとか言わないんだ?」

言葉にしてお互い何かを言った訳じゃなかったけど自然と二人は仲良くなっていき、噂もますます現実味を帯びていった。



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