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□もうひとつのラスト
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【絶対的時間〜もうひとつのラスト〜】

今日の天気は晴天。気分も絶好調だ。

待ち合わせ場所に10分遅れて着いた俺は非常に焦った。いつも遅れてくるハズの彼女の姿を見つけてしまったからだ。

「遅い。このあたしを待たせるなんて…いい根性してるじゃん」

…ものスゴク怒ってる。たかが10分なのに…。

「たかが10分。されど10分!!」

考えを読んだかの様な彼女の言葉に素直に謝るしかない情けない俺。しかし何かひっかかる…。いつもは遅刻ばかりする彼女が先に来ている事が妙に気になった。


「さてと…ヤス、あたしラーメン食べたい」

怒る彼女をなだめつつハンバーグが食べたいと言ったハズの彼女と近くの洋食店に入った途端にこの発言。

「お前…ハンバー…」
「ラーメン。食べに行こ」
「…了解」

怒らせたら後が怖い。素直に従うホント情けない俺…。

「もう二十歳だね、ヤス」

ラーメンを無事食べ終えた俺達はこれといって話題性のない話をしていた。

「おー。てかお前も同じだろ?こないだ誕生日きたじゃん」
「……気付いてないんだね、ヤス」

何かおかしい…いや、彼女のわがままっぷりはいつも通りなんだけど。

「ま、いっか。それより…お願いがあるんだけど」

いつもと違い真面目な表情の彼女。やっぱり変。いつもならー…ん?いつも??…っていつだよ?あれ…??頭おかしくなったか俺…。彼女を見ると、真面目な表情のまま俺を見てる。とりあえず黙っとこう。


「あたしの事もう忘れてくんないかな」

は!?いきなり別れて宣言ですか!?俺は完全にパニックになってしまった。だが彼女は気にせず喋り続けている。

「もう二十歳だよ?大人にならなきゃ。いい加減前に進んで。ヤスはふっ切ったつもりでいるのかもしれないけど現にこうやって…」
「ちょっ…言ってる意味が…」
「分かるよ。本当はちゃんと分かってる」

…分からん。分かりたくもない。

「あたしが誰だか…分かるよね」
「…麻美…だろ…」
「そ。15歳の、ね」

言葉に詰まった。麻美の名前を口にした瞬間全て理解した…。さっきから感じていた違和感も。

「もう楽になろう。いいんだよ、楽になって…ヤスも、あたしも」

そう言って笑う彼女の笑顔は当時のままだ。

「約束守って生きてくって決めたんでしょ?ならもう前に進みなよ。いつまでもこうやってあたしの事なんて考えてたら幸せになれないよ」

もっと麻美の笑顔を見ていたいのに…目の前がぼやけてきた。

「泣いてもいいけど鼻水拭いて。ぶっさいくだから」

…最後まで性格は変わらん訳ね、麻美サンは…。

「ヤスがそんなじゃあたしも次いけない。それに…」

顔を上げて何か言いたいのに言葉が何も出てこない。

「いるでしょ?今一緒にいるべき人。その人とちゃんと向き合って、そんで幸せになるの。ヤスなら出来るよね?うん、大丈夫だよね」

泣きじゃくる俺にあやす様な口調で話しかけてくれる麻美。

「今度は尻にひかれんじゃないよ?もっとこう…強くなんなさい。男なんだからさぁ〜あ!あと一個。ヤスはちゃーあんと約束守ったよ。偉いじゃん。ありがとね、ヤス」

もちろん嘘だ。麻美が嘘をつく時はいつも声が裏返るから…。だけどその一言に俺は本当に救われたんだ。

最後に何か言おうと思ったけど…笑う事にした。目の前にいるハズの麻美の姿は涙でぼやけて見えないけど…笑ってる事が何となく伝わってきた。
そしてそのまま本当に何も見えなくなった…。



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