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【物語のはじまりは…1】

この物語は私達が見守っている小さな恋のお話です。


日曜日の昼下がり。
大通りを右に入った小さな古本屋のカウンターに座りながら、空一面に広がる青空を見つめ、雨雲が現れるのを彼女はただ待ち続けていました。若者から大人まで、小さい店ながらもお客さんの数は少なくありません。それでも彼女は浮かない顔で店番をしています。

「お姉さん、何だか今日は元気ないね。お外はいい天気なのに…。
もったいないよ〜。そんなお顔してたら」

小学生位の女の子がみかねて声をかけると、彼女は寂しそうに微笑みました。

「雨が降るのを待ってるの」
「雨〜?いやだよ〜せっかくの日曜日なのにぃ〜」
「そうね…でも…」

返事を待つ女の子を見つめ、彼女は少し考えた後口を開きました。

「人を待ってるの」
「お友達?」
「んー…ちょっと違うかな」
「ふぅん…じゃあどんな人?」
「物静かな男の人。いつも雨が降ってる日曜日に決まってお店に来てくれるんだけどね」
「え〜雨の日しか来ないの?」
「そ。雨の日だけ」

キラキラした瞳で楽しげに話す彼女を見て、女の子は何か思いついた様です。


「お姉さん…その人の事、好きなんでしょ?」

女の子のストレート過ぎる言葉に、彼女は顔を赤くして俯いてしまいました。

「えへへー。そっかぁ〜。恋してるんだぁ。じゃあ雨、降るといいね!お姉さん!!」

そう言い残すと、女の子は返事を待たずにお店から出て行きました。 女の子を見送りながらまた、空を見上げる彼女。相変わらず空には雲ひとつありません。

「今日がダメでもまた来週…」

女の子と会話した事で少しは気が晴れたのか、少し元気になった彼女の姿がそこにはありました。


それから数週間後の日曜日。
今日は久々の雨降りです。
雨が降っているせいなのか、お店には一人しかお客さんがいません。 二十代前半程の男性がキョロキョロしながら、カウンターに座っている女性に声をかけました。

「はい。何かお探しかしら」
「あ…その…いつもいる若い女の人…今日は…その…お休みですか?」

赤い顔で尋ねる若者に女性は不思議そうに頷きました。

「あー…そうですか…。ありがとうございました…」

あからさまにガックリした様子で去っていく後ろ姿を見て、女性は何かを思い出した様に何度か頷きました。

「あの人の事かねぇ…あの子の想い人。雨の日のお客さんてのは…」

そうつぶやくと一人にやけつつ読みかけの本に目を落としました。

今日は残念な事に二人は会えませんでしたが、この様子だと二人共同じ気持ちみたいですね。

私達は二人に幸せになってもらいたい。私達の様な古本をとても大切に扱ってくれる彼女の事が大好きだから…。


《来週の日曜日こそ、二人が会えます様に》

〜END〜


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