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□番外編
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【物語のはじまりは…番外編】

ある晴れた日の日曜日。
大通り沿いにある大きなデパートの屋上で一つの小さな出会いがありました。

両親と買い物に来ていた小学生位の女の子が、屋上にあるベンチに座りながら目の前にあるクレープ屋の屋台をじーっと眺めていました。

黙々とクレープを作っていた二十代前半程の青年が女の子に気付いて手を止めました。そして、女の子が一人でいる事が気になったのか一緒に仕事をしていた後輩に声をかけ、ベンチにいる女の子の所に向かいました。

「お母さんとお父さんは?一緒じゃないの?」

突然声をかけられた女の子は不思議そうに若者を見上げて頷きました。

「あれ?でも一緒に買い物に来てるんだよね?」
「うん。でもうるさいからここで待ってなさいって言われたの」

女の子の返事に苦笑しつつベンチに腰かけた若者は空を見上げて溜息をつきました。

「…お兄さん、何だか元気ないね。お仕事嫌なの?」
「え?ははは…違うよ。雨…降んないかなぁ…って」
「雨〜?いやだよ〜せっかくのお天気なのに〜」
「そうだね。うん…」
「雨降ると何かあるの?」

興味深そうに問いかけてくる女の子に、若者はちょっと笑ってから頷きました。

「雨だと仕事無くなるから」
「あ〜やっぱりお仕事いやなんだぁ」
「えーっと…いや。仕事は好きなんだけど…」

若者の言葉に女の子は不思議そうに首を傾げました。

「んーと…雨が降ったらさ、どうしても行きたい所があってさ」
「ふぅん…どこに?」
「えっと…この近くにある古本屋なんだけど…俺、ここの仕事が日曜日だけでさ。別の曜日は他の所で仕事だからなかなかこっち来れなくて。雨が降ればここの仕事休みになるから好きな所行けるんだ」
「もしかして、小さい古本屋さん?」
「あれ?知ってるの?」
「うん。私もよく行くの。本好きなんだぁ」
「そっか。偉いじゃん」
「えへへー」

若者に褒められて嬉しそうに笑うと女の子はまた口を開きました。

「お兄さんは、雨が降らないと行けないの?」
「まぁ…うん。仕事あるし…。雨の日の、日曜だけ」
「へー。お兄さんも本好きなんだね」
「まぁね。あと…」

若者は急に口ごもると女の子を見てから小さく笑いました。女の子はキョトンとした顔で若者が喋るのを待っています。

「ちょっと…会いたい人がいて…知ってるかな?お店の店員さんなんだけど…女の人で」
「お姉さんの事かなぁ…優しいお姉さん」
「うん。優しいよね、彼女」

嬉しそうに微笑む若者を見て女の子は急に何か思い出した様です。

「"物静かな男の人"だぁ!雨の日の!!」

突然の言葉に今度は若者がキョトンとする番です。

「あーそっかぁ…お兄さんの事かぁ…いいなぁ〜セイシュンみたい…。でも…お姉さんから聞いてたイメージと違う…」
「???」
「えへへー。雨降るといいね。お兄さん!」

言いたいだけ言うと、向こうに両親の姿を見つけベンチから立ち上がりました。そして楽しそうに若者に手を振り元気よく走って行きました。

訳のわからないまま女の子を見送った若者は、そのまま空を見上げました。残念ながら見事な晴天。雨が降る気配すらありません。

「はぁ〜…来週…降るといいな…雨」

溜息混じりにつぶやくと伸びをしつつ仕事に戻って行きました。



大通りを右に入った所にある小さな古本屋。
そこで出会う様々な人々。
そこで起こる色々な出来事。
きっかけはどんなに些細な事でもよく考えてみると大きな意味を持っている事に気付きます。

あの瞬間があったからこそ今がある…。
何気なく過ごしてる今この瞬間だって
後になって考えてみたらきっと
「あ〜…あん時から始まってたのかも」
なんて事になってるかも。

物語のはじまりなんてそんなものですよね。
素敵な物語があなたにも訪れます様に…

〜THE END〜


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