novelette+

□00
1ページ/1ページ


【物語のはじまりは…エピソード0】

私達は日々戦っている。人間達の気まぐれで破かれ、踏まれ、そして破かれ…埃にまみれ、ヨダレをたらされ、時に投げられ、そして破かれ。人間達のストレスのはけ口にされるという、そんな日々に耐えている。しつこい様だか、破かれるのは実に切ない…。

 そしてとうとうその日がきた。そう…はいひんかいしゅうだ。漢字を忘れてしまった…。本なのに…。そんな事はどうでもいい!なぜなら…私達古本にとってこの日は生と死の境目なのだから。仲間達が紐にくくられ運ばれていく。行き先は不明だ。リサイクルだと願いたい…あぁ…ついに私の番が来た様だ。

しかし様子がおかしい…。今日ははいひんかいしゅうのはず…しかし着いた所は古本屋らしき場所だ。しかも小さい。店がこじんまりとしていていかにも古本屋です、といった感じのする古本屋だ。

中から女性…と思われる人間が二人出てきた。親子だろうか…そっくりだ…。目つきが怪しい…笑っている…なぜだ!しかも手にはハサミ…私達を刺すつもりなのか?それとも切り刻むつもりか?そして破く…いや。ハサミで破く事はないだろう。きっと切り刻むつもりなんだ。私達古本を…。

なぜだ!!紐を切っている…やはり…破くつもりなのか…。私はふと周りを見渡した。仲間達がいなくなっている!!!そして店の奥から仲間の悲痛な叫び声が聞こえてくる…ビリビリという音と共に。

あぁ…ついに私も女性(おそらく娘)の手によって店の中へと…。

怖い…いや?怖くはない…なぜだ!!!なぜこんなにも心穏やかになっていくのだろう…。この店の雰囲気のせいだろうか…。奥に行くにつれ、優しい気持ちが体中に溢れてくる。

私には体はない。だが、そう感じる。なぜだろう…そして私の意識は遠退いていった。


 そして月日は流れ…。


私達は生きている。いや…生かされている。古本屋の中で、仲間達と共に。ちょっとキツそうなママさんと、私達古本をとても大切に扱ってくれる娘さんと一緒に。

あの日、私は変わった。人間達の勝手で買われ、捨てられ、時には随分な扱いを受けてきた私達古本。正直、人間が嫌いだった。…いや、怖かったんだ。しかしあの日の出来事は、いらなくなった本を集め、キレイにし、古本として売る…というこの店の親子によるいわば救いだったのだ。リサイクルという名の。

あの日感じた恐怖は今考えるとちょっと笑える。言葉が支離滅裂で恥ずかしい…。しかし私は変わる事が出来た。心優しい彼女達のおかげで。


そんなある日。小雨の降る日曜日の事。店のドアが勢いよく開き、びしょ濡れの若者が入ってきた。カウンターに座っていた彼女は急いでタオルを探し、突っ立ったままの若者にそっと差し出した…。


その瞬間、何かが少しずつ動きはじめた…。

その話は、また、いつの日か。


〜END〜


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ