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□紅い花咲く処

「ねぇ、運命って信じます?」

唐突に発された言葉に、神田は本を閉じて顔を上げた。顔を上げたというよりは目線だけをアレンにやったといったほうが正しいかもしれないが。質問をした本人であるアレンは、白い手袋に包まれた手を組みながら半ば挑発的な目で神田を見ていた。
「信じるも何も、」
神田は一度言葉を切ってから、付け足すように言った。
「運命ってのは自分で決めるもんだ。周りから何かされない限りはな」
アレンは一度無表情になった後、薄く笑った。屈託のない笑顔。いつも笑顔を張り付けている彼女が本当に笑顔になる時、それは何か興味を持った時だと神田は理解していた。大人の女性特有の色香を出しながらも、あどけない少女の魅力も兼ね添えている。上手に笑う彼女は普段の張り付けた笑顔のほうが万人受けするが、それでも神田はこのどこか神秘的な笑顔が好きだった。
じゃあ、とアルトボイスが響いた。二人しかいない部屋なのに、アレンは神田の肩に両手を置き、耳打ちをするようにそっと神田の耳に小さな口を寄せる。

「じゃあ、僕の存在をきみはしんじますか」

神田はそっとアレンの頬を包み、口づけた。啄む様な、しゃぶり尽くす様な激しい口づけの後、神田は小さく息を吐き出して笑った。
「お前の存在を信じてるから俺はここにいるんだよ」
「……ありがとー」
間延びしたアレンの返事。さらに激しく、神田は口づけた。ふとベッドを見やる。綺麗に整えられたそこに小さな体を押し倒した。
「ん、ぁ……?」
「誘ったのはてめェだ、覚悟しとけよモヤシ」
ばっかみたい、アレンは顔を背けて唾を吐く。
「馬鹿とかお前に言われたくねェ……あ?」
「ん?なんですか?」
アレンの鎖骨付近に小さな紅い花を見つけて、神田は押し倒したときからつかんでいたアレンの細い手首を離した。

「……気が削げた」
「えへへー、お預けですね」
「それが消えたときに、な。そういうのついてると他人のモンに手ェ出してるみてぇでイライラする」

ジャケットを羽織り、神田はその場を後にする。

「また来てくださいねー」

アレンがバタバタと手を振る。
分厚い頑丈そうな鉄の扉が神田のすぐ後ろで閉められた。
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