main
□抱擁。
3ページ/5ページ
そのまま街を歩いた。
手をつなぐまでは進展したけれど、それ以上は行っていない。
キスも……抱きしめるのも、まだ。
普通の恋人はキスしてるし、抱き合うなんて普通の事。
『普通』
それはずっと僕が否定されてきた言葉だった。
「……ねぇ神田、普通って何?」
だから僕は思わず聞いてみたくなった。
僕が立ち止まると、神田も立ち止る。
さっき喉につかえて言えなかった言葉。
あれは僕自身が普通じゃないと思ったからなのかも知れない。
こんなこと聞いたら、変だと思われる。
そう理解してたから。
大切な人にだけは、変だと思われたくなくて―……
「馬鹿」
後頭部に手を置かれ、無理やり上を向かせられた。
「普通が何かなんて、それは個人の判断だろ。お前の腕や髪を何だと言われようがお前がどう思ってようが、俺はこの腕や髪が変だとは思ってない」
不思議だ。
この人に言われるだけで、僕はこんなにも安心できるんだ。
「そっか……そうだよね、有難う、神田」
ふわり、と笑顔を浮かべる。
風が僕らの間を通り抜けた。
「そろそろ暗くなる。帰るぞ」
「……はい」
大きな彼の手に引かれて、僕は教団へと向かった。