ShortNovel-短編小説-

□絶望×希望(※微狂ネタ?注意)
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「こんな素晴らしい春の日に、自ら命を断とうなんて人、居るわけがありません!」
風浦さん・・・何でそんなにポジティブに考えられるのか私には理解できません。

「絶望したぁ! この世の中に絶望したぁ!!」
先生・・・何でそんなに人生に絶望してるのか私にはわかりません。


絶望×希望


「また死に損ないました・・・」
「また、ですか・・・」
カウンセリングルームで知恵先生は“また”をワザと強く発音して聞いていた。
「はぁ・・・彼女が羨ましいです。何故あそこまでポジティブに物事を考えられるのか・・・」
「本当なら、彼女が一番人生に絶望しててもおかしくないでしょうね」
「え・・・?」
「・・・彼女って、風浦さんの事ですよね? 彼女のご家庭の事はご存じでしょう?」
「え・・・あぁ、そういえば・・・」
そんな事を前にちらっと訊いたことがあった。

 父がリストラ、借金、会社が倒産・・・結果、父親が何度も首吊り自殺を図ったり、母親も特別な理由があって首吊り自殺を図ったらしい。

「彼女も気にしてなさそうですし、誰も触れてなかったんですけど・・・普通なら、だれしもが絶望するような人生なのに・・・」

 何故そんな人生にも関わらず・・・彼女はあそこまでポジティブで居られるのだろうか?


「酷い夕立ですね・・・ん?」
古い木造建築の校舎の廊下を、可符香は外の景色を少し楽しそうに見ながら歩いていた。
歩くたびにギシギシと音を立てる・・・たが、それとは別のギィ・・・という音が部屋の中から聞こえた。
「・・・何の音?」
音のなる部屋へ入ると・・・
「!!」
望が(また)首を吊っていた。
「いけません!!」
思いっきり抱きつき、引き下ろそうとしたが・・・余計に首が締まっている。
「命を粗末にしてはいけませんっ!」
何度も引っ張っているうちに・・・縄は古かったのか切れた。
「痛たた・・・せ、先生! 大丈夫ですか・・・って、あれ? 前にもこんなことあったような・・・」
「Σゲホォッ!! カハッ・・・し、死んだらどうする!!!」
「・・・・・・死ぬ気、やっぱりなかったんですね」
「・・・;」
「でも、よかったぁ・・・息止まってましたよ?」
「・・・よく貴方は絶望せずに、ポジティブにこの世界で生きていけますね」
「何言ってるんですか?」
「私が本気で首を吊っていたにも関わらずに・・・身長を伸ばそうとしていたとあの日も言っていたし・・・」
「また、身長を伸ばそうとしていたんでしょう?」
可符香はいつも通りの明るい声で言った。
「違いますよ!」
「だって、私のお父さんも身長を伸ばそうとしてました」
「それは違うと思いますよ?!」
「私の周りで自殺しようとしてる人なんて、いるはずがありません!」
「いや、ここに居ますが・・・」
「先生は、身長を伸ばそうとしていたんですよね?」
「風浦さん・・・?」
「お母さんも身長を伸ばそうとしていたんですよね?」
「あの・・・」
「そうですよね?」
倒れている望に身を乗り出して可符香は問いたてる。
「ふ、風浦さん・・・?」
「だって、私の周りで死のうとしてる人が居るなんてありえない!」
「ど、どうしたんですか・・・?!」
「ありえない、ありえない、ありえない、ありえナイ、アりえナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイ!!」
「風浦さん?!」
笑顔を浮かべたまま、明るい口調のまま・・・彼女はそれを否定し続ける。
「・・・そんな、絶望的な人が・・・私の身近には・・・・・・いるはず、ない・・・」



「・・・現実拒否とでも言うんでしょうね。あまりにも辛い現実を突き付けられると、人はまず現実逃避に走ります。その現実から必死に逃げようとします。それを通り越したのが現実拒否・・・現実を否定してしまい、見れなくなってしまう・・・」
「知恵先生・・・じゃあ、風浦さんはそうだと?」
「多分・・・その反動から彼女はあそこまで物事をポジティブに考えるようになってしまったんじゃないでしょうか?」
あの後、意識を飛ばしてしまった可符香は保健室のベッドに寝かされていた。
「彼女・・・本当の名前を言わないのは、それも関係しているのかもしれませんね・・・」


「先生、私倒れたんですか?」
目を覚ました可符香に尋ねられた。
「えぇ、そうですよ」
「変だなぁ・・・どこも悪くないのに」
「・・・風浦さん、私は死のうと何度も試みました」
「・・・?」
「・・・貴女は、今まで一度も人生に絶望したことは・・・本当にないんですか?」
「ないですよ」
即答した可符香に食い下がることなく続ける。
「じゃあ、貴女のご家族は?」
「ちゃんと、生きてますよ」
「どうして本名を名乗らないのですか?」
「こっちの名前も結構気に入っているんです」
「どうして、自分の周りに不幸な人間が居ないと言い切れるんですか?」
「居ないからですよ」

「どうして・・・現実をみないんですか?」

「だったら、先生も現実を見れてません」
「え・・・?」
「絶望ばかりの世界なわけがありません」
「・・・」
「それなら、先生だって現実逃避をして現実を見てません」
「・・・・・・現実を受け入れてるからこそ・・・現実を逃避したくなるんです」
自嘲的な笑みを浮かべて望は言う。
「現実・・・見てますよ。だから逃避したくなるんです」
「そうですか」
「・・・現実を否定するのは・・・見てないからですよ」
「・・・私は、この世の中は素晴らしいことばかりだと―――――」
「そんな訳がない! だったら、貴女の父親は何故リストラしたんですか? 会社が何故倒産したんですか? これも素晴らしいことと言うんですか?!」
もう感情に任せて言葉を吐くしかできなくなった。もう何を言っているのかも分からなくなりかけた時、彼女は続けた。

「・・・・・・新しいセカイへ繋がる踏み台になります。決して絶望することはありません」

「・・・世の中が希望ばかりとは限らない」
「・・・世の中が絶望ばかりなわけありません」


「・・・・・・貴女のお父さんやお母さんが首を吊った時も・・・“赤木 杏”だった時も、そう思っていましたか?」




「・・・誰ですか?
 “アカギ アン”って―――――」









現実を見れてないのは・・・どちら?

END 次ページあとがき
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