「くそ!覚えていやがれ!!」
3人の男が逃げてゆく。
中でも、”永野しんや”という奴は、グループのリーダーらしい。
…が、手ごたえは無かった。
あーゆー奴等がいるせいで、毎月のおこずかいが消える。
「早く行こうぜ。校長に怒られる。」
1人の仲間(と語っている。)は言った。
中1の俺等がなぜ3年の奴等にあんな事を言われなければいけないのか。
ムカツク(怒)
「ゆうきく〜ん!!」
誰かが俺の名を呼ぶ。
振り向く。…なんだ、恵比寿か。
無視して歩き続ける。
恵比寿が腕をとる。振り払う。
また腕をとられる。…ウザイ。
体に触るな!!ベタベタするな!!
でも、声はベタ付かない。サラサラしている。
…んな事はどうでもいい。
またもや腕を振り払い、ランニング形式で走る。
恵比寿が追ってくる。
仲間(らしき方々)は帰ったようだ。
恵比寿が迫ってくる。
スカートが風になびく。
「ちょっと待ってよ〜!」
言ってる割には、足が速い。
と、考えている内に、家に着いた。
アイツも帰ったようだ。…隣だけど。
「そっか、兄貴は委員会で遅くなるんだっけ?」
”ピンポーン”
玄関のチャイムが鳴る。
ドアを開けるとそこには、鍋を抱えた恵比寿が立っていた。
「どうした?」
「今日、ゆうき君のお兄さん、委員会で遅くなるって聞いたから…。シチュー食べて?火、貸してくれたら、温めるから…。」
そういや、こいつの姉貴と俺の兄貴、同じ委員会だったっけ?
「おう、頼む。」
「うっ、うん。お邪魔します。」
何?こいつ、顔赤い…?
胸が一瞬”ちくっ”ってした。
「??俺、どっか悪いのか??」
なんか、恵比寿見てると、心(ここ)が温かくなってくる。
こんな経験は初めてだ。
目の前に温まったシチューが置かれた。
「じゃあね…また…明日…ね…。」
外に出ようとした恵比寿を、俺はなぜか、腕をとって止めてしまった。
「せっかくだからさ…あの…えっと…」
「何?」
「だからあの…せっかくだから一緒に食べようぜ!!!」
恵比寿の顔が噴火した(ように見えた)。そして勢いよく、
「うん!!!!!」
と、答えた。
朝になった。
昨日と打って変わって激しい雨が降っている。
「やべっ!遅刻する!」
着替えて外に出ると、隣の家に人だかりが出来ている。…救急車?
倒れているのは…
「恵比寿っっ!!」
慌てて抱き起こす。
「恵比寿!恵比寿!!」
すると、薄く目を開け、一言言った。
「来てくれたんだね…。ありがとう…。」
隊員の人が首に手を当て、首を横に振った。
恵比寿の姉貴が泣き出し、人々が散らばってゆく。
俺は一瞬意味が分からなかった。
途端に、大粒のナミダが溢れ出てきた。
「何でだよ恵比寿…何で死んじまったんだよ…。今日また会うって言ったじゃねーかよ…。ゆうき君って呼んでくれよ…。」
雨の中で1人嘆いた。
「俺、気づかない内にオマエの事が好きだったよ…。」
そして、最後の言葉を口にした。
「恵比寿…いや、果音(かりん)、ありがとうな。」
いつの間にか雨は止んで、雲の隙間から太陽が顔を覗かせていた。
あとで医者から聞いたこと。
死因は急性心臓麻痺。
それを聞いた時は、絶句した。
でも、今でもアイツの声が聞こえてくる。
俺をゆうき君と呼ぶ声が、
アイツが言った、最後の言葉が。
”ありがとう”
これを胸に俺は今日も駆け出す。
”ありがとう”
これは俺とアイツの合言葉。
END