「DIGI:EYEs」
□第1話
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落ちること数分。いい加減無重力状態にも慣れてきた。
「これ、地面に落ちた衝撃で確実に死ぬな……ってアレ?」
目の前には生い茂る木々。着地の記憶などなく、知らぬ間にあたり一面白の景色から万緑の景色へと変わっていた。仁を信じるなら、ここがデジタルワールドということになる。森の澄んだ空気や空の青さは、人間界のそれとなんら変わりのないものだった。
「腹……減ったぁ……」
突然、少し離れた所から声が聞こえた。少し危険だが、達也の好奇心はそちらへ足を動かせようとしていた。
「行ってみよう」
適当な木の棒を持ち、深い森を慎重に進む。
しばらく進むと、少し開けた所に、灰色の毛並みの犬のような生物が倒れていた。
「こいつは……ガジモン?」
目の前に横たわる犬のようなデジモン、その名もガジモン。灰色の毛は荒れ痛み、色も濁っている。
「こいつ、やばいぞ。どうにかしないと」
とにかく、意識があるか確認するためガジモンを抱えた。毛はガサガサで、肉が薄くなっているのか、骨の形が分かった。
「おい、大丈夫か?」
体を揺すると、ガジモンの耳がピクリと動き、薄っすらと目を開いた。
「何か、食い物はないか……?」
「食い……物……」
ここで達也はとても重要な過ちに気づいた。
「しまった! 俺何も持ってきてないじゃん!」
とりあえず仁に連絡するために携帯電話を取り出した。もしかしたら転送なんてこともできるのかもしれない。そうすれば自分もガジモンも助かる。急いで電話帳から仁の番号を探して電話を掛ける。
数回の呼び出し音の後、仁が電話を取った。
「あぁ、達也だけど」
「よかった。無事についたんだな」
仁が溜息を吐いたのがわかった。
「うん、確かにここはデジタルワール……うわっ!!」
ガジモンが達也の左腕に体当たりを仕掛けた。いきなりのことで反応できず、握っていた携帯電話を弾き飛ばされてしまった。
「食い物!!」
「だから今電話を……」
ガジモンの様子がおかしい。どうやら食べ物を催促した様子ではない。そのまま達也の脇を走りぬけた。
「あっ……まさか!」
ガジモンは宙を舞っていた携帯電話の落下地点に先回りし、口で捕まえ、そのまま噛み砕き飲み込んでしまった。
「ん? 意外に容量あるんだな、一つで満腹だ。礼を言うぞ、人間」
骨と皮しかなかった彼の衰弱しきった体が、萎んだ風船に空気を入れたようにみるみる膨らんでいく。携帯電話を食べて腹が膨れるとは思っていなかった。
新たな発見に驚きながらも、達也はこれからの事を考えていた。問題は多い。まず一つ目、唯一の人間界への帰還方法を失ったこと。二つ目、仁への連絡方法を失ったこと。三つ目、食料が無いこと。一つ目の人間界への帰還方法については、自分ではどうしようもない。仁が連絡が着かなくなったことから察してどうにかしてくれると信じるしかない。二つ目も同様か。深刻なのは三つ目、食料がないのは致命的である。
「おい人間、何を悩んでるんだ?」
「お前が携帯電話食っちまったせいで俺の食べ物がなくなったんだよ」
「……それは済まなかった」
ガジモンの顔を見て達也の脳裏にあるアイデアが浮かんだ。
「なあガジモン、頼みたいことがあるんだけど」
「言ってみろ。それと人間、俺の名はベルだ」
そう言って彼、ガジモンのベルは達也を見た。ベルに直視されて達也は思わず後ずさった。血のような黒味を帯びた赤色の双眸、鋭く尖った犬歯と爪。改めて見ると、二足歩行であることも含め、人間界での犬とは大きく異なり、それが一体となって達也を威圧した。
「……俺を近くの村まで連れて行ってくれないか?」
「いいだろう、食い物の借りもあることだ。付いて来い」
少しも考えずにベルはそう答えると、達也に背を向け歩き出した。その背中に達也は声をかける。
「それとベル、俺の名前は人間じゃない、達也だ」
ベルは急に足を止め、振り返りもせずに答えた。
「だが俺はあえてこう言おう、人間。俺はお前と馴れ合うつもりはない」
それだけ言うと再びベルは歩き出した。達也はベルの言葉に虚を衝かれたように暫く立ち尽くしていたが、あわてて追いかけ出した。
To be continued......