紅獅子 物語
□擦違いからの脱出
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「謝らなくちゃいけない。でも、どうやって?あんなこと言ったから、俺を、避けてるのに」
(サラザールは、多分、拒絶されることを恐れてた。なのに、俺は・・・)
溜息を吐いていると再び、扉を叩く音がした。ゴドリックは深い溜息を吐いて立ち上がり、扉を開けようとして、手を止めた
「・・・・・・何だ。何かが」
(嫌な予感がする)
ゴドリックは、ドアノブから手を離してバッと退いた。しかし、ゆっくりと扉が開く。そこには、フードに身を包んだ者達が数名現れた
「ッ!?」
「ほぅ、これは好都合。あの方が居らっしゃらないとは」
「オマエ達はッ」
「では、ご一緒していただきましょうか?グリフィンドール」
「断る!」
「仕方ありませんね」
男が退くと後ろに居たらしい者がやってきた。ゴドリックはバッと剣を持とうとするが今は持っていないことに気づく
「ッ!しまった。クッ、エクスペリアームズ(武器よ去れ)!」
武器解除の呪文で8名近くが吹き飛ばされる。2人が失神呪文を放つが盾魔法で防ぎ、武器解除呪文でその2人も吹き飛ばす
「成る程、彼らが少々手を焼いていた訳です。さすがはフラウ・グリフィンドールの子。身のこなし等は父譲りというわけですか」
「!な、父さんを知ってッ」
「えぇ。もちろん・・・彼の苦しむ顔と言ったら無かったですね」
「!?なっ!?」
「こんなふうに」
「ッ!?・・・ぁっ」
父親の名を出されて反応が遅れたゴドリックは、腹にバチッと電撃が走った。腹部を見れば、男の拳がある。痛みに顔を歪めるゴドリックに男は嘲笑う
「ッぁ・・・し、しまっ」
「えぇ。そう、そうです。彼もそんな顔をしていましたよ・・・」
男は小瓶の中の物を口に含むと膝を付き咽込むゴドリックに口付けて飲ませた
「んっ?!ンん゛ッ!?・・んふっ・・んっ・・・・・・はっ・・ぁっ」
ゴドリックは、薬を飲まされるとその場にバタリと倒れ、動かなくなった
「クスクス・・・苛めがいがありそうな紅獅子ですね。ですが、今回の目的は貴方じゃないんですよ。貴方は餌ですからねぇ。撤収しましょう」
指をパチンッと鳴らすと男がやって来て、倒れたゴドリックを抱えて彼らは去って行った
暫くして、戻ってきたサラザールは玄関先の状況に蛇達を呼び出した
《何故、オマエ達は攻撃を仕掛けなかったのだ》
《申し訳ありません。あの者達は我らを阻む術を施していましたので》
《如何な処分もお受けいたします》
《・・・オマエ達を処罰した所で状況は変わらん。だが、オマエ達のことを知っていたとなれば、スリザリン家縁の者か》
《はっ。あの者は、―――――》
彼は「そうか」と言って、ある場所に向かって行った。その頃、薄暗い空間の中、壁に磔にされているゴドリックは目を覚ました
「ッ・・・・・・はぁ」
(なんか、俺、捕まってばっかりだな;;)
「ほぅ、気がついたようだな」
「・・・・・・また、俺を利用しようとかいう連中なわけ?」
「?・・・あぁ、連中は下っ端でしかない。私が用があるのは貴方ではなく、スリザリン卿」
「!・・・サラザール?」
ゴドリックが呟くと男は彼の頬を叩いた
「ッ!?」
「光のグリフィンドール如きが我らが主たる闇のスリザリンの名を呼ぶとは」
「・・・・・・」
「まぁ、かの方にも困ったものだ。闇のスリザリン当主でありながら、光のグリフィンドール当主と親しくするとは。闇の魔法使い始まって以来の異端なる親子」
「・・家系が何だっていうんだ。サラザールはサラザールだ。アイツが誰と何をしようが関係ないだろう」
「あるのだよ。純血の家系であるが故に、その魔法使いの血をより濃く、魔力をより強く、長く我らの血を残すには純血であるのみ。その象徴たるスリザリン家がそれを省みぬグリフィンドール家と相容れるなどあってはならぬことだ」
「血が何だ。魔力が何だっていうんだ!純血だろうと混血だろうと関係ない。魔法族は魔法族だ。それに、思いはその人のものだ。サラザールはサラザールだ!スリザリン家だろうが関係ない!」
「はっ!貴様にスリザリン家の何が分かるというのだ。あの家系の貴重さも知らぬ者が」
「家系なんか知らないさ。俺が知っているのは「サラザール・スリザリン」だ。蛇と過ごして、魔法薬研究が好きな引篭りで植物探して2日以上平気で帰ってこないようなとんでもない奴だ。だけど、狡猾で孤高な男で・・・・・・俺の、友人だ。オマエ達にアイツのことを知った風なことを言うな!」
「ははは、これは傑作。光のグリフィンドールが闇のスリザリンを友と称すか?ククク、ほざくなよ。所詮、あの男はスリザリン家当主に相応しくないのだ。スリザリン家当主たるならば、闇の側でなくてはなぁ。さて、貴様はその減らず口をどうにかせねばな」
「ッ!?・・・」
ゴドリックの顎を持ち上げ、男はニヤリと笑った。サラザールはフェルバジルナーク邸にやって来ていた
「ゼロス・フェルバジルナーク。ゴドリックが捕らえられた」
「なんだと!?オマエ、何やってたんだ!」
「・・・・・・」
「・・・チッ、イグノタス」
「・・・なんだ」
「連中の場所は」
「郊外、ヴァンダルト邸」
「蛇達も言っていた。連中の中、首謀者たる者が「リヴァイア・ヴァンダルト」であると」
「あぁ〜、やっぱ、あの一族か。スリザリン家の親族がらみってやつか」
「・・・今回は、紅獅子ではなく、月蛇が目的ということになる」
「・・・フフフ、やはり。ならば相応の礼をせねばならん」
「おい、スリザリン、待て!」
「断る」
サラザールは、バシンッと姿くらましでその場から消えた
「あの馬鹿ッ!イグノタス、組織上層。それから魔法省に報告しろ。現地集合だ。あの馬鹿、連中を皆殺しにしかねない。急げ!!」
「・・・了解した」
イグノタスは透明マントを被り、姿を消した。ゼロスも扉を開けて玄関から出て行った。サラザールはヴァンダルト邸前に現れる。周囲を警戒していた者達は漆黒の闇の中、月に照らされる白銀の髪とギラリと睨みつける真紅の瞳にゾクリと体が強張り、ガタガタと震える
「ヴァンダルト卿は居るのだろうな?」
「ッ・・・ぅぁっ・・・ッ」
「居るのだろうな?答えろ」
「ッ・・・は、はいッ!・・・や、邸に、ッい、い、い、いらっしゃいますッ」
「・・・」
彼が通り過ぎると数名はその場で失神し、また他はその場に座り込んでしまった。サラザールはヴァンダルト邸の扉を開けると目の前にはその邸の主が深々とお辞儀をした
「これはこれは、スリザリン家当主様。今宵、貴方様がいらっしゃるとは光栄にございます」
「・・・余計な話は要らん。貴様が我が邸から奪ったものを返してもらおう」
「何のことでございましょう?由緒正しき我ら純血の魔法族の主たるスリザリン様より奪うなど」
「・・・・・・無いとは言わせん」
瞬時にサラザールは彼の傍に移動し、射殺さんばかりの殺気で睨みつけ、彼に杖を突きつける
「ゴドリック・グリフィンドールを返せ」
「ッ・・・何を言われるかと思えば。あの男は、光のグリフィンドール家当主ですぞ。闇のスリザリンたる貴方様とは敵同士ではありませ・・」
「・・・リヴァイア・ヴァンダルト」
「ッ;;」
「死にたくなければ、大人しく返せ」
サラザールの紅の瞳に睨まれ、彼はゾクリと強張る
「そんなにあの男が大事なのですか?」
パチンと彼が指を鳴らすとヴァンダルトの背後に明かりが灯る。其処には磔にされたゴドリック・グリフィンドールが居た。服は肌蹴、彼の肌からは所々から血が滴り、彼の顔は血の気が無い。床には、ポタポタと滴り落ちる血が広がっている
「ッ!・・・貴様ッ」
「グリフィンドール家当主と友などという関係になることなど、スリザリン当主に相応しくないこと。光と闇が相容れることなど有り得ない。光のグリフィンドールは愚かな存在ですな。その男は、貴方のことを友などと言う」
「!?」
サラザールはゴドリックへ視線を移す
「純血の者がそれをせぬ者と相容れるはずも無い!それを良しとしているグリフィンドール、闇の側であるスリザリン家が親しくなるなど有り得ない。故に、貴様が闇の者の主スリザリン家当主など相応しくない。何故、貴様がその位置に居る?!私の方がその座に相応しいのだよ!」
「・・・・・・言いたいことはそれだけか?」
そういうとヴァンダルトの傍で何かが落ちる音がした。彼が下を見ると左腕が落ちている。自身の左を見れば、そこにあったはずの左腕が無かった
「!あ゛ああああぁぁぁぁぁっ!!!!!」
「・・・・・・」
ボトボトと滝のように流れる血。左肩を押さえ、ヴァンダルトは退いた。サラザールはそれを冷たい表情で見つめ、一歩ずつ歩む。磔にされたゴドリックの前まで来ると彼はヒュンッと杖を振る。拘束されていた物が外れ、ゴドリックは床に足を付くも意識を失っているので倒れ伏す。そんな彼をサラザールは受け止め、ゆっくりと彼を床に横たわらせ、彼の紅の髪を優しく撫でた
「リヴァイア・ヴァンダルト。貴様には、ゴドリックが味わった苦しみよりも何倍もの苦しみを与えてやろう」
「覚悟は良いな」と紅の瞳で睨みつけ、ローブから鉄の棒を取り出す。杖と同じくらいの長さの棒は、サラザールの身長の1,5倍の長さまで伸びると、先端から曲がった刃が現れる。それは、命を屠る鎌。白銀の刃が月夜に照らされギラリと不気味に光る
「ッ、ひっ;;」
「左腕の次は、右足。四肢を切断し終えたら、次は瞳を抉り取ってやろう」
「っ・・・闇の、スリザリン;;」
サラザールは、試験管を手にし、その中身をヴァンダルトの足にかける。ジュワッと音を立て、彼の皮膚は溶ける。ヴァンダルトの叫びが邸に響いた
「フフフ・・・さて、次は、何処が良い?貴様に選択の権利をやろう。無しならば、我の好きなようにさせてもらうぞ」
「ぁ・・・ぅぁっ;;」
恐怖で声が出なくなっているヴァンダルト。其処へ、ゼロスとイグノタスがやって来た。ゼロスは制止の声を発し、イグノタスは部屋の匂いに眉を寄せる
「其処までだ!スリザリン!!」
「・・・・・・ゼロス・フェルバジルナーク」
「ッ!?」
(血の、匂い)
「邪魔をするな、ゼロス・フェルバジルナーク。この男には死よりも辛い苦しみを与えてやらねば、我が気が納まらん」
「それ以上すれば、オマエが毛嫌いしている連中と変わらない。戻れなくなるぞ、スリザリン」
「フンッ、例えそうなろうと最早引き返すことなど出来はしない」
彼等から少し離れたところで倒れているゴドリックの手がピクッと動いた
「サラザール・スリザリン!」
「そう・・許すことなど、出来るわけも無い。我が光を奪おうとする者を、決して、許すものか!」
「止めろ!サラザール・スリザリン!!」
「・・・?!」
鎌を振り上げるサラザール。イグノタスとゼロスが止めに入ろうとする。しかし、彼の鎌は振り上げられたまま、それが振り下ろされることはなかった。後ろに少し引っ張られる感覚がして、サラザールは、鎌を振り上げたまま、後ろを振り返る。其処には、床に手を付き、上半身を起こしてもう片方の手で彼のローブを掴み、彼を切なそうにだが、優しく見つめるゴドリックが居た
「・・・サラ、ザー、ル」
「・・ゴド、リッ・・ク」
「・・・ダメ、だ、サラザール。ね?・・俺、大丈夫、だから。だ、から・・・もう、良いんだ」
ズルッと彼の手がサラザールのローブから離れ、彼はその場に倒れそうになるのをサラザールが鎌を振り払って受け止める。手を離れた鎌は壁に突き刺さる
「ゴドリック!」
「・・・ん、やっぱ、暖かいな、サラザールは。ごめん、俺、オマエに、酷いこと言った」
「・・・・・・ゴドリック」
「ごめん、サラザール。でも、やっと、言え・・た」
「・・・今は、話すな、ゴドリック。傷に障る」
「ん・・・大丈夫、だから、な。少し、寝る、だけ・・だから」
ゴドリックは、そのまま意識を手放した。サラザールはギュッと彼を抱きしめる。そんな彼をゼロスは、呆れたような、困ったような表情で溜息を吐く
「スリザリン。此処は、任せて・・・さっさと帰れ」
そう言えば、彼はゴドリックを抱え上げて無言で姿くらましした
「フッ・・さて、さっさと済ませようか、ペベレル」
「・・・了解した」
スリザリン邸に戻ってきたサラザールは、抱えていたゴドリックを自室のベッドに寝かせ、戸棚を開けて、試験管を数本、取り出す。蓋を開けて、中身を口に含むとゴドリックの顔を少し上げて、唇を重ねて口内に薬を移す
「・・・・・・んっ」
コクッコクッとゴドリックの喉が動く。それを確認しながら、サラザールは次の薬を彼に口移しで飲ませた。全てを飲まし終える頃には、ゴドリックの顔色は少し落ち着き始めてきていた。彼の服やシーツを杖を振って綺麗にし、布団を掛ける。サラザールは、ゴドリックの頬に触れた
「・・・・・・ん」
「・・・ゴドリック・グリフィンドール」
彼の名を呟くサラザール
「・・・・・・よもや、我も父上と同じように対となる者を欲するとはな」
フッと彼は微笑んだ
「・・・オマエ、だけだったのだ、ゴドリック。初めて出逢い、我の容姿にも、家柄にも関係なく、接してきたのは。それに、我の瞳を、恐れもせず、綺麗だと言ったのも」
― 綺麗だよな・・サラザールの瞳。ルビーみたいで♪ ―
「あのようなこと、我の前で言ったのはオマエが初めてだったのだぞ。それに「友」などと、ゴドリック。オマエは我の想像を超えることを言う」
― サラザール ―
「・・・オマエは、常に我を。スリザリン家当主ではなく、サラザール・スリザリンとして見てくれる」
サラザールは眠るゴドリックへ視線を向ける
「ありがとう、ゴドリック」
彼は、両親以外に生まれて初めて、感謝の言葉を口にして優しく微笑んだ
『擦違いからの脱出』
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