紅獅子 物語
□希望と擦違い
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「あ、やっと下りてきたんだ」
「・・・昼時だろう?」
「あぁ。なぁ、サラザールは料理って誰に習ったんだ?」
「?・・・父上だ」
「え?母さんとかじゃなくて?」
「あぁ、父上だ。母上は我が幼い時に亡くなったからな」
「ぁ・・・わりぃ」
「いや。貴様は?」
「俺?ん〜、丸焼きとかならしたことあるけど〜」
「・・・・・・それは料理では無いだろう?」
「あとは・・・・・・父さんが教えてくれたクッキーとかの作り方くらいしか」
「・・・そうか。魔法は?」
「それは父さんに子どもの頃から叩き込まれたから」
「剣術もか?」
「あぁ」
「そうか。まぁ、フラウ・グリフィンドール殿ならそうだろうな」
「え?サラザール、父さんに会ったこと、ある、のか?」
「あぁ。数回、この邸に来たことがある。父上は友人としか言わなかったし、フラウ・グリフィンドール殿も名しか言わなかったから、当時はグリフィンドール家当主とは思いもしなかったが」
「・・・そうなのか」
「あぁ」
「・・・俺は、父さんには、似て無いよな」
「?」
「ずっと、あの背中を追いかけていたのに・・・俺は、何処で道を間違えたんだろう」
そう言って落ち込む彼にサラザールは近づいて彼の頬に優しく触れる。不意に彼は頭を上げて、サラザールを見上げた
「さ、サラ、ザール?」
「貴様に初めて会ったとき、貴様の父と間違えかけた」
「そ、それは、姿が、だろ?」
「そうだな。魔力の感じが違う。だが、貴様は何故、父と比べる?貴様は貴様、フラウ・グリフィンドールはフラウ・グリフィンドールだろう?それに貴様は道は間違えていない。我は貴様に闇の魔力は感じないと言った筈だが」
「でも、俺はッ」
「・・・」
「・・・俺は・・」
「・・・貴様が死に、それで不死鳥の騎士フラウ・グリフィンドールは喜ぶのか?」
「!」
「貴様は、悔いているのだろう?ならば、償いの道を探せば良いのではないか」
「・・・償い?」
「死で報いろうとするな。それは自己満足でしかない。貴様は、他にも類を見ぬほどの魔力を持っている。それを使わずしてどうする?それだけの魔力を持ちえながら、何もせずに死ぬ気か?死にたいのならば、何かを成してから勝手に死ねばいい。何も成さず、償いもせずに死ぬなど愚かなことだ」
「・・・何か、か・・・・・・」
それから、数週間。ゴドリックはサラザールの邸に滞在していた。彼のゴドリックへの対応は以前変わること無く、またゴドリックは順応が早く、すぐに慣れていった。この数週間誰も来なかった彼の家を誰かが尋ねてきた。それは、これから彼らが昼食にしようと思っていた時のことである
「?誰だ?」
「・・・」
ゴドリックは首を傾げるがサラザールは溜息を吐きながら、扉の前に立ち、戸を開けた
「よぉ、スリザリン」
「・・・・・・何の用だ?ゼロス・フェルバジルナーク。それに、イグノタス・ペベレル」
扉の前にゼロスとイグノタスが立っていた。ゼロスは「邪魔するぜ」と言って、入ってくる
「・・・・・・?・・・ぁ、あの時の」
「よぉ。フラウ・グリフィンドールの息子」
「え、そうだけど;;」
「ふぅ〜ん、不死鳥って言うより、獅子の魔力って感じだな」
「え?」
「いや、俺達は、魔力を見れる。魔力は人によって千差万別だ。指紋みたいにな。俺の名は、ゼロス。ゼロス・フェルバジルナークだ」
「ぁ、俺はゴドリック・グリフィンドール」
握手を求めてきたゼロスにゴドリックも手を出し、握手を交わした
「あぁ、あと、こっちは家の組織とフェルレオナーク直属の諜報部兼闇祓いでもある」
「・・・イグノタス・ペベレル」
「ぁ、よろしく」
「・・あぁ」
「・・・ていうか、スリザリンといい、オマエといい、もっと明るく出来ねぇのかよ」
「我の性格を貴様にとやかく言われる筋合いは無いぞ、ゼロス・フェルバジルナーク」
「・・俺の性格は元からだ。其処の蛇と同一に見られるのは屈辱的だぞ、ゼロス」
「ほぅ、実に不愉快だが、貴様と意見が合うとはな、イグノタス・ペベレル」
「チッ、貴様と同意見など・・・先程の自分をぶん殴ってやりたい」
「ならば、良い薬があるぞ、イグノタス・ペベレル。一口飲めば、あの世行きだ。死とやらに歓迎されるぞ」
「良し。今すぐ、それを貴様に飲ませてやろう。死への貢物にして俺は逃げる」
バチバチと火花を散らす2人にゴドリックはビクリッと震えて、無意識にゼロスの後ろに隠れて、それを見ていた。それを見て、ゼロスは溜息を吐いた
「・・・ったく、2人が揃えばコレだ。いい加減にしろってぇの」
「ぇ?い、いつも、なのか?」
「あぁ。良く、飽きもしねぇでよぉ」
「・・・・・・でもさ」
「あぁ?」
「・・喧嘩するほど、仲が良いって・・・父さん言ってた」
「あぁ〜、そりゃあ、そうかもしれねぇけど・・・;;」
(あぁ。やっぱり、コイツ、あの不死鳥の騎士の息子だなぁ;;)
「?なに?」
ゴドリックはゼロスの視線に気づいて、彼を見て首を傾げながら聞く。ゼロスは、頭を掻きながら言った
「いや、オマエ、やっぱり不死鳥の騎士の息子だなぁって思ってよ」
「え?」
「見た目とかじゃねぇぞ。あの光景見て、そう言ったのオマエラくらいだからさぁ」
「・・・父さんも?」
「あぁ。笑いながら言ってのけてたぜ;;」
「・・・そ、そう;;」
「?」
ゴドリックは少し頬を染めて俯いてしまった。ゼロスは彼を見て「可愛い」と感じて、彼の頭を撫でようと手を伸ばしたが、その間を何かが通り過ぎて、彼は手を止めた。通り過ぎた方を見れば、間違いが無ければ、壁に死の呪文が当たった痕があった。呪文が飛んできた方を見れば、サラザールが杖を持って此方を睨んでいる
「・・・ゼロス・フェルバジルナーク」
「・・・・・・あぁ〜、成る程〜〜」
「?どうしたんだ?・・・サラザール?」
「貴様が気にすることは無い。ゼロス・フェルバジルナーク、イグノタス・ペベレルを連れ、さっさと我の部屋に行っていろ。報告なら其処で聞く。その前に我らは昼食を摂る」
「ぁ、そういえば、腹、減った;;」
「来い『ゴドリック』。昼食にする」
「え?・・・・・・ぁ、あぁ♪」
(名で呼んでくれた♪何だろ、何かすっげぇ嬉しい♪♪)
ゴドリックはまるで尻尾を振って喜ぶ犬のようにサラザールについて行った。彼らが去っていく方を見ていた、ゼロスとイグノタス
「・・・へぇ、あのスリザリンが人を名で呼ぶなんてな」
「・・・」
「どうした?イグノタス」
「いや・・・ただ、太陽に固執した月に対する周囲の闇の星が気に掛かると思ったまでのことだ」
「・・・太陽に固執した月、か。それは不死鳥に固執した蛇と同じだな」
「後者は、良くとも、前者はそうは行かない。まだ、月の周囲は確立されていないんだぞ」
「あぁ、分かってる。今回の首謀者を探せ、イグノタス」
「・・・分かっている」
2人は、サラザールの私室へと向かって行った。サラザールは昼食を済ませると私室へと向かった。ゴドリックは、暖炉前のソファでまた横になった
「・・・・・・俺に、出来ること、か」
ゴドリックは自分に出来ることは何かとずっと考えていた
「俺がしたこと、その償いになるような何かが・・・それに見合うだけの何かを俺はしたい」
そう言いながら、上に上げた掌を何かを掴むように握り締めた。その時、ふと父フラウの言葉が浮かんだ
― 良いか、ゴドリック。人は1人では生きられない。マグル出身の魔法族も俺達も何も変わらない。マグルと俺達だって人間であることには何も変わらない。支えあえるし分かり合える生き物だ ―
― でも、マグルは俺達のこと・・・ ―
― あぁ、そうだな。でもな、それは些細なことを誤解して、違うって区別してしまうのさ。魔力の有る無しでな。でも違う。分かり合えるんだぞ ―
― 分かり合える? ―
― あぁ。分かり合えるんだ。そして、魔法族同士でもな ―
彼の父が最後に言った言葉は、今回のことを表していたのではないかとゴドリックは考えていた
「・・・光も闇も・・・魔法族も非魔法族も、それにマグルから生まれた魔法族も。皆が皆、分かり合えれば・・・支えあえれば・・・・・・そんなことが出来る場所があれば」
そう考えて、ゴドリックは、ふと思った。自分もそうだが、マグル生まれの魔法族は何も分からずに魔力を使ってしまうから魔女狩りにあってしまう。魔法族と非魔法族も見た目は同じで、魔力があるか無いかでしかない
「・・・なら、魔力を制御出来たら、非魔法族の世界でも大丈夫じゃないのか?使い方も力も制御出来るんだったら・・・・・・そんな場所があったなら」
「争いは無くなるかもしれないな」
「!・・・ぁ、イグノタス」
ゴドリックが声がしたほうを見ると其処には、階段を下りてくるイグノタスが居た
「話は済んだのか?」
「・・・あぁ。あとは、スリザリンとゼロスが話し合う。俺は報告のみだ。ところで、先程の話だが」
「え・・・ぁ、あぁ。俺に出来ることはないかって思って、魔法族も非魔法族も分かり合えるはずなんだ。魔力が有る無いでそれだけのことが邪魔してる。じゃあ、魔力の使い方も力も制御出来たら、マグルの世界でも大丈夫なんじゃないかなって思って」
「つまり、魔力を制御出来て、魔法も覚えられる場が必要だということか?」
「あぁ。それもあるんだけどさぁ。俺もさ、何が出来るか、何をすべきなのか、自分のことが全然分からないんだ。だけど、サラザールに逢って、俺は少しずつだけど分かってきた気がしたんだ。だから、様々な仲間、人と出逢って、共に自分の道を見つける為の場所・・・それを、俺は」
「築きたいのか?」
イグノタスの言葉にゴドリックは彼を見つめてから、少し考えて答えた
「・・・そうだな。うん、そんな場所を築きたいな。きっとさ、すごく楽しい気がする」
「・・・つまり、オマエは学び舎を・・・学校を築きたいのか?」
「?学校?」
「・・・子どもが集まり、勉強をする場のことだ」
「・・・学校・・・」
「?」
「そうか。そうだよ・・・俺は」
(どうして、気づかなかった?いや、何故、忘れてたんだ。俺は)
ゴドリックは、今、思い出したとばかりに1人呟く。それをイグノタスは腕を組んだまま、黙ってみていた。話し合いが済み、ゼロス達が下りてくるとイグノタスはゼロスと共に去って行った。サラザールは、机に肘を付き、それに頬を乗せているゴドリックを見つめる
「おい」
「ん?」
「イグノタス・ペベレルと何を話していた?」
「え?・・・あぁ、え、と、俺に出来る償いの話」
「?・・・」
(・・・学校、か。約束、したんだもんな。絶対築かなきゃ)
ゴドリックは、えへへっと楽しそうに笑う。サラザールはそれを不機嫌そうに見つめた。それから、3週間。問題は解決しないまま、ゴドリックはサラザールの所に居た。今、彼は屋敷に居ない。此処に居るのはゴドリックのみだった
「・・・」
― なぁ、シェリー。俺、さ。マグルと魔法使いも仲良く出来ると思うんだ。俺達がそうなように。きっと、マグルも魔法使いも、分かり合える時が、魔女狩りが無くなる時が来ると思えるんだ。俺、何時かさ、学校を創ろうかと思う。マグルから出た魔法使いも魔法使いから出た魔法使いも魔法を学べる学校を築きたいんだ。そうすれば、魔女狩りも無くなるんじゃないかな。分かり合えるそんな場があれば ―
― えぇ。そうね、ゴドリック。皆が理解すれば、きっと分かり合える。でも、そんな学校が出来たら、本当に素敵でしょうね ―
― 出来たら、じゃない。俺が築いて見せるさ・・・あのさ、出来たら、見て、くれるか? ―
― えぇ。見たいわ。貴方が築いた学校を。きっと、楽しくて、素晴らしいんでしょうね♪ ―
「・・・結局、君には見せることは出来なかったな。だけど、俺、築いて見せるから・・・だけど、学校築くにしても、俺1人じゃあなぁ〜」
(サラザールは、手伝ってくれるかな?)
彼の脳裏にサラザールの姿が過ぎる
「でも、知り合って、そんなにだし、アイツにとって、俺は」
(たぶん、邪魔なんだろうな。今は、事件が解決してないからってだけで)