遊戯王夢

□カラスのリンゴは落としにくい
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「いいって、別に。それより何であんな急いでたんだ? 前の俺に気付かねぇとは余っ程だろ」



女の子が服の汚れを払ってる間に、気になった疑問を投げかけてみた。
道のど真ん中にいた俺にぶつかる理由とは、どんなもんかと少し興味が沸いたからだ。
女の子はちょっと驚いたように俺の顔を見たが、特に疑う事無く話し出した。



「実は、さっき水着を盗まれたの」

「み、水着!?」



予想外のワードに、俺とした事が思わず声を荒げてしまった。
水着、ってそんな大事なもん盗まれる女の子を見たのは初めてだ。
しかも、こんな可愛い子の水着をとはなぁ……犯人もバッチリ狙ってやがるぜ。
デュエル並に刺激のありそうな話に、そのまま女の子の言葉に耳を傾ける。



「水着はバイト用なんだけど、入れていたカバンを盗まれて、そのまま犯人を追いかけてたの。だけど見失っちゃって……」

「犯人の特徴は覚えてるか?」

「D・ホイールに乗ってたから顔は分からないけど、犯人のD・ホイールなら携帯に撮っておいたわ」



と言えば、女の子は取り出した携帯の写真画面を見せてくれた。
……が、そこに写っていた見覚えのあるD・ホイールの後ろ姿に目を丸くして驚いた。



「これは……俺のD・ホイール!?」


画像は少々ぶれていて判別しにくいが、こんなD・ホイールを使う野郎が俺らラグナロクの他にいるはずねえ。
おまけに運転手のヘルメットはフルフェイスタイプであり、運転手は俺では無い事もうかがえる。


「え!? じゃあ、私の水着を盗んだのって――」

「俺はそういうのは頂戴しねーよ! 実をいうと、俺もD・ホイールを盗まれてたところだ。なるほど、犯人は俺のD・ホイールを使って盗んだってワケか」



ようやく話が繋がったが、人のD・ホイールをパクっておきながら面倒な事をしてくれる犯人だぜ。
変な噂とか立つ前に、さっさと犯人をとっ捕まえねぇとマジでヤバそうだな。
一方、女の子は俺の話の内容がようやく理解できたのか、手をポンとたたいた。



「そっか、貴方も私と同じ犯人の被害者だったのね」

「まっ、そういう事だな。――ここで会ったのも何かの縁だ、軽く自己紹介といこうぜ。俺はブレイブ、あんたは?」

「私は優香。ブレイブくんかぁ、よろしくね!」



優香は、自分と同じ立場の奴が居て肩が軽くなったのか微笑んで答えた。
初めて見た優香の笑みに、うっかり見とれてしまう。
可愛い女の子の笑顔に俺は弱いんだが、優香の場合だと特に破壊力抜群らしかった。



「っと、優香はこれからどうするんだ? 俺は仲間に連絡してD・ホイールの場所を追跡して貰おうかと考えてんだけど」

「うーん、一応さっき知り合いのセキュリティの人に連絡しておいたから、何か情報が来るはずだと思うんだけど……あっ」



ちょうどその時、優香の携帯からメロディーが鳴る。
優香は「ごめんね」と俺に一言言うと、通話ボタンを押して電話の相手と話し始めた。
タイミングからして、恐らくセキュリティからの電話だろう。


優香はしばらく会話を交わすと、携帯を耳から離してバッと俺の方を振り返った。
その表情が明るい事から、たぶん何か新しい情報でも手に入ったかと俺は耳を澄ます。
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