男塾夢
□回りだした恋ごころ
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天動宮で事務員として働くようになり、早二カ月。
始めこそ屈強な男ばかりでコミュニケーションを取ることが大変であったが、
日数を重ねるごとに働きぶりが認められ、樹里はすっかり天動宮になじみつつあった。
しかし、この日常に慣れたのは良いもの樹里にはある悩みがあった。
「そろそろ新しい服が必要かなぁ」
天動宮にて与えられた自室のクローゼットを見ながら、うーんと考え込む樹里。
自宅から生活用品や服は多く持ち込んではいたが、さすがに二カ月もたつと服のローテンションにも飽きてくる。
塾生たちのように制服もなく、また樹里も女性であるため、さすがに新しい服は欲しい。
「下着とかもちょっと痛んでくるし。化粧品とか生理用品もそろそろ必要だし、久しぶりに街にも行きたいし……」
と樹里が呟いたのには、男塾内で唯一の女性という事もあり安全上の観点からまだ外出許可が出ていないのだ。
最初は仕事で忙しく気にならなかったが、生活を送る以上、いい加減買い物をしないと限界である。
決意した樹里は、外出許可の判断を決定する権限を持つ影慶に相談してみる事にした。
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「外出許可だと?」
「はい。買い物をしないと、いろいろ足りなくなってきまして……」
男塾死天王の定例会議の中で、樹里は影慶に外出許可をうかがってみた。
さすがに服や化粧・生理用品などは口にはできなかったが。
「許可してやったらどうだ? もう樹里も一度くらい外に出たいだろう、必要なものもあると思うしな」
同席していたセンクウが女性事情を察したのか、言葉を付け加える。
「それはそうだが……」
「こう見えても餓鬼じゃねぇんだし、多少の外出は問題ないだろ。なんなら俺が付いて行ってやろうか?」
「いや結構です、卍丸さん」
ニヤリと笑って樹里を見やる卍丸に、即座に拒否をする樹里。
それに冗談だとは思うが、卍丸がついてくる姿を想像すると明らか目立つのは間違いない。
「だが、誰か付いて行くというのは良いのではないか? 樹里に万が一の事があっても安心だろう」
羅刹の発言には、影慶も少し考えて「確かに」と小さくうなづいてみせた。
ここまで外出だけで慎重になるのも、男塾に女性がいる事自体まったく前例がないので、どう扱っていいのか分からないところもあった。
しかし、樹里とて女性。そろそろ外出くらい許可するべきだと影慶も頭では承知はしていた。
「樹里、もし外出に塾生が同行となっても問題ないか?」
「えっ、そうですね。それは仕方ないかなぁと思います」
影慶に問いかけられた樹里であったが、同行については渋々であったが承諾をした。
今回女性用品をいくつか購入するので恥ずかしい気持ちは大きいが、
死天王たちが自分の身を案じてくれていると考えると拒否はできなかった。
「……了解した。至急邪鬼様に確認をしてくる、樹里はそこで待機していろ」
「はい。よろしくお願いします」
そう樹里に告げた後、邪鬼の元へと足早に会議室を去った影慶。
邪鬼に確認するまでの大事に発展してしまい、申し訳ないと思う気持ちがあったが、
樹里の心は久々に外出できるかもしれないという期待感にあふれていた。
仮に塾生が同行といっても、こんな雑用なら桃たち一号生だと思うので、そこまで気は遣わなくてもよい。
樹里は邪鬼からの返答を待つ事になった。