遊戯王夢

□きっかけはチョコレート
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――今日は二月十四日。
女性が男性に親愛の情を込めてチョコレートを贈与するというお馴染みのイベントの日のことだ。

私もそのバレンタインデーに便乗し、片思いしている相手――クロウに、今日チョコレートを渡すことに決めた。
新愛の情を込めてというか、もちろん私の場合は愛の告白として渡すのでいわゆる本命チョコになる。
普段料理なんて滅多にしないけど、頑張って手作りでトリュフなんて洒落たお菓子も作ってみた。
一応クロウは甘い物は苦手じゃ無いそうだけど、受け取ってくれるかな……。


不安と期待が入り混じる中、私はクロウがいるガレージへと向かうのだった。



++



「うーん、どうしよう……」



いざチョコを持ってガレージの前に来たものの、これから渡すと思うと妙に緊張してしまい私は中に入れずにいた。
普段だったら平然と渡せるだろうけど、今日はチョコを渡すと同時にクロウに告白すると決めているからかもしれない。
ブラック・バードがあるから、クロウがまだ仕事に出掛けていないのは確かなんだけど……。

なかなか中に入る勇気が起こらず、ガレージの前をウロウロしていると、ガチャリとガレージの横にある扉が開く音がした。


ま、まさかクロウ!?
ちょっと待って、私まだ心の準備が―――!


チョコの入った箱を素早く背中に隠し、反射的に私はギュッと目を瞑った。



「……優香? こんな所で何をうろついているんだ?」

「へっ?」



クロウとは違う、聞き慣れたトーンの低い声に思わず素っ頓狂な声を上げ、私はおそるおそる目を開ける。
すると、私に視線を向ける遊星の姿があり、扉を開けたのも、どうやら遊星のようだった。
ちなみに遊星とは、クロウと同じくらい仲良くしていて、私の大切な仲間でもあり友人だ。
現れたのがクロウでは無かったことに、ホッと少し安堵していると、いつのまにか遊星が私の目の前にまで来ていた。
なんだか背中に隠しているチョコが気になっているような雰囲気もしたけど、私は気にせず口を開く。



「遊星、い、今のは何でもないの! ただ寒いから歩き回っていただけだから!」

「そうだったのか、なら俺は何も言わないが……。ところで優香のことだ、何か用があって此処に来たんだろう?」

「う、うん、ちょっとクロウに用があって」

「クロウなら配達前でまだ中にいる。優香も中に入るといい、外で歩き回るよりは大分暖かいと思うからな」



そう言うと遊星はくるりと振り返ると、スタスタと扉の方へ戻っていく。
たぶん一緒に入ってくれ、という意味なんだろう。
まだ心の準備は出来てないけど、あのままウロウロしてても準備が出来たって訳でもないし、ちょうど良い機会だ。勢いに任せて渡しちゃおう。


背中に隠したチョコを持つ手にぎゅっと力を込めると、私は遊星の後について行くように一歩踏み出した。


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