遊戯王夢

□メカニック姉弟
1ページ/5ページ

冬のリクエスト企画物/遊星と姉弟設定/ほのぼの/



「遊星、ジャック、みてみてー!」



とある昼間の空き地―――
遊星とジャックが、今まさにデュエルディスクを装着しデュエル開始の宣言をしようとした時に、二人の元へ遊星とは一つ上の姉である優香が駆け寄って来た。
真剣な空気が周囲に溢れ出ているのにも関わらず気付いていない様子の優香は、ニコニコと笑みを浮かべている。
ライバルとの真剣勝負の瞬間を邪魔されたジャックは、当然ながら眉をピクピクさせ優香へと向く。



「おい、優香! 今はデュエルの最中だ! 用事なら後に……」

「ねえ、これ見てほしいんだけど」

「俺の話を聞け!」

「待て、ジャック。まだデュエルは始まっていないだろう、姉さんの話が優先だ」



構えていた腕を下ろしながら遊星は、そのまま姉の優香の前にいく。
遊星までに言われデュエルお預けを余儀なくされたジャックは、イライラしつつも素直に遊星の後ろへとついていった。



「で、姉さん。話というのは……」

「ふっふっふ、我が弟よ。見て驚かないでよ……」


二人が集まると、優香はニヤリと口元を緩ませ、背中に隠してあったデュエルディスクを彼らの前に差し出した。


「じゃーん! 新しいデュエルディスクが遂に完成したの!」



自信満々な顔で優香は、二人にキラキラと視線を送る。
弟の遊星と同じくメカニックが得意とする優香は、デュエルディスクやD・ホイールなどを一から作るのが趣味であった。
もちろん遊星やジャックも、その才能は認めているのだが、頻繁に失敗するのが優香の弱点だった。

――たとえば、D・ホイールの加速の上限を間違えてしまい知らずに乗ったジャックを海に落とさせたり、デュエルディスクを弄った時も誤作動でディスクごと爆発しジャックにリアルすぎるダメージを与えたなど、失敗談は数え切れないほどにある。
ちなみに偶然と奇跡でも重なったのか、なぜか被害者は全てジャック一人だった。

今回のデュエルディスクも見る限りでは、どうもごく一般的なデュエルディスクである。
ジャックはともかく、さすがの遊星も中まで調べないと違いが分からなかった。



「モンスターの攻撃の演出も、よりリアルにしてダメージ時の衝撃の出力も上げてみたの。って事で、ジャックくんよ。早速これを装着して遊星とデュエルしたまえ」

「断る! 貴様が作った物を使うとろくな事がないのは事実だ、しかも何故か俺ばかり……! 遊星、さっさとデュエルを再開――」

「いや、姉さんのことだ。きっと成功しているはず……ジャック、今こそ姉さんとの絆を信じる時だ」



これでジャックに同じ台詞を投げるのはもう十八回目だというのに、気付いていないのか真剣に遊星は答える。
相変わらず何の根拠もなく姉を信じる遊星に、ジャックは最早呆れて言葉が出てこない。
ふいに背中をポンと叩かれ、ジャックが振り返ると優香がニッコリと微笑んで例のデュエルディスクを目の前に差し出した。



「遊星の言う通り大丈夫だって、今度こそ成功してるわ。きっと凄い快感がジャックを襲うはずよ! 私を信じて!」

「だから、俺はいらんと言っているだろう! 快感も必要なければ、その言葉を信じて俺が今までどんな目に遭ったか……」



ジャックがどういう目に遭ったのかは前述にも述べたが、計二十回は軽く超している。
二十回以上も不運に見舞われるジャックも凄いが、それを何もなかったようにする優香と遊星のスルースキルは鉄壁だった。



「ジャック、心配するな。姉さんの言うことに間違いはない。快感も満足も味わえるだろう」

「貴様はもっと姉をよく見ろ! あと快感から話を離せ、満足もいらん」

「遊星は私のこと一番に見てくれてるもーん。快感や満足だって最初は痛いだろうけど、慣れたら多分―――」

「ええい、そんなもの慣れたくもないわ! まず快感と満足を一緒にするな!」



しばらく、同じような口論が小一時間ほど途切れず続いたが、遊星と優香は退く様子は全くない。
このメカニック馬鹿姉弟を相手にしても時間と労力の無駄と感じてきたジャックは結局デュエルディスクを装着することに渋々承諾した。
また何か絶対に絶対に絶対に災難があると、覚悟を決めつつ。


無意識か知らないが強引に物事を進めようとするのは、姉も弟もソックリだと心の中で悪態をつきながら、ジャックは優香からデュエルディスクを奪い取り左腕へと装着した。


.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ