遊戯王夢
□ずっと傍で、支えたい
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「そこで、だ。お前が夜遅くに帰ることになった時は俺達が家まで送ることにする」
「え?」
まったく予想外の言葉に、思わず素っ頓狂な声を上げて聞き返してしまった。
えっと、私の聞こえた通りでは、い、家まで送ってくださるとかなんとか……?
「さんせーい。良い提案するなぁ、ジャン! アンドレも構わないだろ?」
「もちろんだ。俺もその方が良いと思う」
「そっ、そんな! 皆さんの手を煩わせることなんて出来ません! お気になさらず、私なら大丈夫です! あの、他の仕事が残ってますので私はこれで!」
これ以上いれば送って行く方に話が進みそうだったので、私は一礼して逃げるようにトレーニングルームを後にした。
(ま、まさかユニコーンの皆さんから心配されるどころか、家まで送るとまで言われるなんて……)
トレーニングルームからの帰り道、胸の鼓動はまだドキドキしていた。
もちろん本当に家まで送っていただく訳にはいかないけど、憧れの皆さんに優しい言葉を掛けてもらえただけで幸せだ。
また仕事を頑張らないと! と改めて気合を入れ直し、早く別練にあるサポータールームに帰ろうとした矢先だった。
「きゃっ!」
突然、誰かに足を引っ掛けられ、その場に派手に転んでしまった。
手に持っていた書類がバサバサと音を立てて周囲に散らばる。
慌てて拾おうと書類の一枚に手を伸ばした瞬間、私の足を引っ掛けたと思われる人影が目の前に姿を現わしたのだった。
「あらぁ、ごめんなさい。貴女があんまりにも浮かれた顔をしてるから、つい足が出ちゃったわ」
そう言ったが悪びれた様子もなく、地面にうつ伏せになっている私をニンマリとした顔で見下す人物――確かユニコーンの熱狂的ファンのリーダー格の女の人だ。
後ろには仲間であろう四、五人のファンの女の人達が私を睨みつけるように見下ろしている。
「ったく、こんな化粧もしてないようなダサい女があのユニコーンの皆様のサポーターなんて有り得ないわよ」
「ホント、ホントー。私らの方がもっとサポート出来るってのに」
「何であんたみたいなブスが、サポーターに選ばれたのかが信じらんないっていうか」
私にわざと聞こえるよう大きな声で話しケラケラと笑いながら、ファンの女の人達は地面に広がった書類を足で踏んでいく。
リーダー格の女の人は、満足そうにその様子を眺めていた。
……チームユニコーンのサポーターの中で唯一の女性である私は、女性ファンから陰湿なイジメを受けていた。
と言うのも、今私の目の前のファンの人達は元々ユニコーンの女性サポーターの採用試験に落ちた人ばかりで、一人合格した私を妬むようになったのが始まりだ。
それからというもの、頻繁に影で私を辞めさせようと精神的に追い込んできたという訳である。
書類をこれ以上汚させてはいけない、と上半身だけでも起き上がろうとすると、リーダー格の女の人が前にしゃがみ、そのままグッと私の前髪を痛いほどの力で掴み上げ、無理矢理顔を上げさせた。
「うっ……や、止めてくださいっ」
「あらあら、私達がこれだけやってもまだ分からないとでも?」
「私は、貴女達にどんな酷い事をされても、ユニコーンのサポーターを辞めるつもりはありませんっ……!」
「へえ、言うじゃない。その信念がどこまで続くか見物だわ……」
ニヤリと微笑むと、私の前髪を掴んだまま顔ごと地面に勢いよく叩きつけた。
そして「ユニコーンの皆様のトレーニングの時間が始まるわ!」と、急いでトレーニングルームの方へとファンの人たちは走り去っていった――。