遊戯王夢
□きっかけはチョコレート
5ページ/8ページ
「はぁー、ようやく終わったぜ……」
配達を終えた俺は、盛大に息を吐いてそう呟いた。
今日はバレンタインデーということもあってか、普段よりも配達の量が多かった気がする。
いつもなら昼からの配達は大抵ニ、三時間で終わるのだが、おかげで今日は夕方まで掛かってしまった。
まあ、その分稼げたという事でもあるが。
――世の中バレンタインだというのに、俺は一個すらチョコを貰えねえとは。
一応ガキ共からは貰ったが、俺が求めているチョコとは少し違う部類のチョコになる。
またガレージに帰って、俺宛てでもないジャック宛てのチョコを山ほど食う派目になると思うと胃が重くなりそうだった。
ブラック・バードを走らせ、ようやくガレージが見えてきた時、見覚えのある人影が見えてきた。
だんだん近づくと、その人影は優香で間違いなかった。
何故ガレージの前に突っ立ているか分からないが、よく見ればジャックが俺の貯金で買いやがったあの黒いコートを着ている。
(ジャックの野郎でも待ってんのか?)
そんな考えが頭を過ぎると、なぜか居ても経ってもいられなくなり、ブラック・バードを近くに止め優香の元へ走り出していた。
優香は俺に気付くと、パッと顔を明るくして笑顔で迎えてくれた。
「あ、クロウ! お仕事お疲れさま」
「おう、今日は結構ハードだったぜ。ってか、こんな寒いってのに誰か待ってんのか?」
「う、うん……クロウを待ってたの」
「へ、俺を?」
思ってもいなかった言葉に、目を見開いて驚く。
てっきりジャックの奴にコートでも返すためかと思っていたからだ。
それじゃ、優香が俺を待つ理由とは一体………
頭で必死に心当たりを探してみたが、特に思い当たる理由はなかった。
「うん。――あのね、クロウ。もうチョコを見るのもイヤかもしれないけど……これ、クロウのために昨日作ったの」
「うえっ!? お、俺にか!?」
予想だにしていなかった言葉に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
そんな俺をよそに優香の背中から現れたのは、可愛らしくラッピングされた箱、もといチョコレートだった。
優香からチョコを貰えるなど、まったく期待もしていなかったので差し出されたチョコを見て目を丸くして驚く。
「クロウ、私の気持ち……受け取ってくれる……?」
恥ずかしそうに頬を赤らめ、チョコを持つ優香の手は小さく震えている。
こんな寒い中俺を待っていてくれて、もはやただの義理チョコという訳でもないだろう。
それに今まで女からジャックに渡してほしいとチョコを何度か渡してきた事はあったが、明らかにその女達と優香の渡した方が違う。
(これは……間違いねえ。優香から俺への本命チョコだ……!!)
ようやくチョコの意味に気付くと、嬉しさや戸惑いで顔が一気に熱くなった。
もともと優香のことは前から可愛い奴と思っていたから、目の前にいる優香が一段と愛おしく感じる。
俺はおそるそるチョコに手を伸ばし、優香の手ごとチョコを掴んだ。
そして、そのままチョコごと自分の胸に引き寄せ抱き締める。
腕の中で俺を見上げて驚きのあまり口をパクパクさせている優香が、どうしようもなく可愛いと思った。
「すっげえ嬉しい……。ありがとな、優香。大事に食べさせてもらうぜ」
優香の耳元に顔を寄せ、低く囁いて言うと耳元から流れるように頬にキスをした。
自分らしくもないキザな行動に俺はさらに顔が真っ赤になったが、チラリと優香の様子を見るともっと赤いのは優香の顔の方だった。
.