遊戯王夢
□きっかけはチョコレート
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「だって、クロウは今チョコを見るのもイヤらしいから渡さない方が良いかなって思ったの。どうせジャックの分が沢山あるから、私のチョコなんて受け取ってくれないだろうし……」
「そんな事はない。チョコはただのキッカケにすぎない。チョコよりも優香の気持ちを伝えるのが大切なんだ」
「気持ちを伝える……?」
今までチョコを渡すことばかり考えていて、気持ちのことなんてすっかり忘れていた。
そうだ、チョコを渡すと同時にクロウに自分の気持ちを伝えるようと思っていたんだった。
「優香がクロウを想う気持ちをそのチョコと共に伝えれば良い。アイツはチョコの中に籠った気持ちに気付かないほど鈍感な男じゃないさ」
「でもクロウはチョコを見るのもイヤだって……」
「それはジャックや自分以外の男宛てのチョコを見るのがイヤなだけじゃないか? 優香のように自分宛てのチョコだったら……果たしてどうかな」
そういえば遊星の言う通り、クロウはジャック宛てのチョコを見てイヤだと言っていた気がする。
って事は、私にもまだ希望の光は残されてるってこと……?
――やっぱり渡すのを諦めるのはまだ早いかもしれない。
チョコを抱き締めている手にぎゅっと力を込めると、私は大きく深呼吸して顔を上げた。
「遊星、ありがとう。私……クロウにチョコを渡してみるね。――気持ちと一緒に!」
「ああ。頑張れ、優香」
キリッと表情を引きしめ、抱き締めていたチョコを片手に持ち換える。
今、クロウは配達に行ってるから外で帰ってくるのを待っているのが一番得策かもしれない。
私がガレージの扉に手を掛けた時、ふいに遊星が「優香」と呼ばれ、振り返ると大きな黒コートをふわりと差し出された。
「クロウを待つんだろう? 外は寒いからな、歩き回るよりは暖かいと思うぞ。ちなみにジャックが衝動買いで買ったコートだから、汚しても問題はない」
「うわー、ありがと! 遊星には友チョコでたくさんお礼しないとね! あれ、ところで遊星はここにいるの?」
「いや……俺はこれからゾラやマーサに呼び出されていてな。しばらく留守にすると思う」
「そ、そうなんだ……」
意外と遊星は熟女にモテるのかと感心しつつ、遊星と別れてガレージの近くでクロウの帰りを待つことにした。
ちなみにジャックの黒コートは手まで隠れるほどブカブカだったけど、身体はポカポカして暖かった。
――クロウ、早く来ないかなぁ……。
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