遊戯王夢

□きっかけはチョコレート
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「優香、クロウへの用事は良かったのか?」



今まで黙っていた遊星が声を掛けてきたので、私はハっとして遊星の方へ視線を向けた。
遊星は、心配そうな表情で私を見つめている。
よほど顔にまで出ていたという事なのだろう、変な心配を遊星に掛けさせる訳にもいかない。
私は少し笑みを浮かべて、顔の前で右手を軽く振った。



「うん、もう良いの。それより遊星……これ、よかったら食べる?」



遊星の前に、ずっと背中に隠していたクロウに渡すはずであったチョコを差し出した。


(クロウに渡しても多分受け取ってもらえないだろうし、私が一人で食べるより遊星に食べてもらった方が良いよね)


幸い遊星の位置からは、背中に隠していたチョコは見えていなかったはずだ。
友チョコとか言っておけば、遊星だって何も疑いも無く受け取ってくれるだろう。



「今日バレンタインデーでしょ。友チョコなんだけど、どうぞ」

「ああ、ありがとう………ん?」



私の思った通り、遊星は何も不審に思わず差し出されたチョコを受け取ろうと手を伸ばそうとした―――
が、チョコの方に遊星が視線を向けた瞬間、何故かその手はピタリと止まった。
遊星の視線は何故かそのままチョコへと向けられたままで、なかなか受け取ってくれない。
一体どうしたのかと、私は遊星におそるおそる声を掛けてみることにした。



「ど、どうしたの? 遊星」

「……いや、この紙に『クロウへ』と書かれているんだが、俺が受け取っても大丈夫なのか?」

「へ、この紙……? って、あー!」



紙、という言葉に心当たりがあった私は、即座に自分の持つチョコを確認してみると、リボンに挟んだメッセージカードに『クロウへ』と目立つように書いていたのだった。


(そういえばラッピングの時に書いていたんだっけ、すっかり忘れてた……!)


これだと、誰が見てもクロウ宛のチョコレートだと判断できてしまう。
何も考えず遊星に渡そうとしてしまったことに、今さら恥ずかしくなり顔が熱くなる。
もう誤魔化しが利かないと悟った私は、すぐにバッと頭を下げた。



「ゆ、遊星、ごめんなさいっ! ホントはメッセージの通り、く、クロウに渡すはずのチョコだったの。友チョコってのも嘘で……」

「別に俺は気にしていない。そんな頭まで下げないでくれ、優香らしくないぞ」

「遊星……ありがとう。本当の友チョコは後でちゃんと渡すね」



普通だったら怒っても良い場面というのに遊星の寛大さに感謝しながら、私はゆっくりと頭を上げた。
実は友チョコなんてクロウの本命チョコに力を入れすぎて作れなかったんだけど、これはまた遊星のために友チョコを作ってあげなきゃ。



「しかし友チョコにしたら包装がやけに丁寧だと思ったが……なるほど、やはりクロウ宛てにだったんだな」

「うん……結局渡せなかったけど」


がっくりと肩を落とし項垂れながら、差し出したチョコを両手で胸に包み込むように抱き締める。


「もしかしてさっきクロウが言ったことを気にして渡せなかったのか?」



的を得た質問に、思わずギクリと身を固くしてしまった。

(遊星って鈍感そうに見えて、案外勘が鋭いんだよなぁ)

私は観念したかのように、おずおずと話し始めるのだった。


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