遊戯王夢

□鈍感レベルMAX
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「先生……うちの優香に何をしてるんです……?」


ドス黒い声の主はラモンだった。
なぜか優香の部屋の扉の前に立っており、殺気に満ちた目で鬼柳を睨んでいる。
鬼柳は今度はわざと聞こえるようチッと舌打ちをすれば、優香を先に立たすと、自分も起き上がった。
当の優香はぴりぴりと殺気立った雰囲気に気付くことなく、いつもの口調でラモンに声を掛ける。



「あれ、おじさん、来てたんだ!」

「なるほど、合鍵を使ったって訳か……」

「優香の保護者であるんだから、合鍵くらい持ってますぜ。で、先生、嫁入り前の優香の部屋に来て襲うなんて一体どういう事ですかね?」



優香の前だからか表面上はニコニコとしているが、ラモンの周りには黒いオーラが滲み出ている。
襲うというか、むしろ優香に押し倒されたのだが、手を出したのは自分からなので鬼柳は言葉を飲み込む。
しかし、相変わらず場の空気が読めない優香はこの雰囲気には似合わない明るい声で話し出した。



「あのねっ、鬼柳さんにデュエル教えてもらうことになったの!」
 
「先生に?」

「うん、鬼柳さんっておじさんに認められるほどの強いデュエリストじゃない? だからデュエルを教えてもらっておじさんの右腕にいつかなりたいな、って」



えへへと恥ずかしそうに言いながら、純粋な目でラモンを見つめる優香。
そんな健気に自分のために頑張ろうとしていた優香の姿を見て、ラモンの周りに漂う黒いオーラが一瞬にしてピンク色の穏やかなオーラに変わり、ラモンは優香をガバッと抱き締めた。
突然のラモンの抱擁に、優香どころか傍観していた鬼柳さえも目を見開いて驚く。



「お、おじさんっ!?」

「うッ……優香にこんなに思われてるなんて、おじさんは幸せ者だな……。だが、先生に教えてもらうまでもねえ、おじさんが教えてやるからまた一緒に暮らし――」

「おじさんの気持ちは嬉しいけど、私は鬼柳さんが良いな〜。だって、おじさんだとわざと負けるでしょ。あと私一人で暮らしたいんだよね」



スルリと容易くラモンの腕の中から抜け出した優香は、鬼柳の腕を組んだ。
可愛い優香の叔父からの自立とも取れる言葉にラモンはショックを受けたが、同時に再びドス黒いオーラがラモンの周りに漂い、憎しみのこもった目で鬼柳を睨んだ。



「先生……優香がそこまで好きなんですね。嫁入り前の優香の部屋に無理矢理上がり込んで襲おうとするまでにッ……!」

「いや、元々俺は優香に連れて来られただけで、押し倒したのも優香が先……」

「嘘は駄目だぜ、先生。ピュアで汚れをしらない優香が先生を押し倒すなんて、んな物騒な真似するハズねえ!」



自分も目の前で優香が鬼柳の上に乗っている所を見たというのに、勝手に脳内変換でもされているのかラモンに鬼柳の話は通じない。
おまけに大事な時に優香は、会話の意味がよく分からずポカンとしている。
鬼柳は呆れて最早ため息すら出ず、開きっ放しである窓の縁に足をかけると、そのまま外に身を乗り出した。



「せ、先生!? まだ話は終わって―――」

「あんたの話は長いんでな。俺は帰らせてもらうぜ」



そう言うと、鬼柳は窓からヒラリと飛び、軽やかに地面に着地した。
素早い動作で家の前に止めていたD・ホイールに跨り、そのままエンジンをかける。



「あー! 鬼柳さん、もう帰っちゃうの!? デュエル教えてくれるって言ったのに!」



前にいるラモンをどかして、窓から身を乗り出さんばかりに優香は鬼柳を澄んだ瞳で捉える。
どこまでも純粋な優香の瞳を見つめ返しながら、鬼柳は「やはりキスをしておくべきだった」と少しだけ後悔の念に駆られた。


(全く危機感の無え優香だ。これからも無意識で俺を生殺しのような目に遭わせるだろうな――――だが、それも面白い)


フッと口元だけ緩めると、鬼柳はヘルメットを被り最後に優香に一言だけ告げた。



「また明日にな、優香」



鬼柳の返事に優香は輝かんばかりの笑みを浮かべた。
思わず鬼柳は、その優香の笑顔に見惚れそうになったが、構わずD・ホイールを走らせて行く。
優香は鬼柳の去っていく姿を、窓から見えなくなるまで見届けた。

―――何故か速くなっていく胸の鼓動に違和感を覚えながら。


ちなみに、ラモンも優香と同じように窓から身を乗り出してずっと騒いでいたのだが、二人の世界に入っていた鬼柳と優香には存在すら忘れ去られていたのであった………。




fin.

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