遊戯王夢
□鈍感レベルMAX
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「ちょっと、先生! うちの優香とまた何やってるんです!?」
ようやく鬼柳が目の前から消えたことに気付いたラモンは、慌てて優香と密着している鬼柳に駆け寄ろうとする。
鬼柳はチッと舌打ちをすると、後ろから抱きつく優香を無理矢理はがし、そのままヘルメットを渡した。
「さっさと乗れ! お前の叔父に捕まったらキリがないからな……今日だけ特別だ」
「やったー! ありがと、鬼柳さん!」
満面の笑顔で優香はヘルメットを被ると、待ってましたとばかりにD・ホイールに跨り鬼柳の背中にしがみつく。
D・ホイールが走り出すと、ラモンは「待ちやがれ〜」と情けない声を上げながら追いかけるが、足で敵うはずもなく暫くしてその場にしゃがみこんでしまう。
鬼柳のD・ホイールが駆けた後の砂煙が舞い、遠くまで見えるようになる頃には、もうすっかり愛しい姪の姿は見えなくなっていた。
地面に座り込んだラモンは悔しそうに唇を噛み締めながら、腰に着けたディスクホルダーにしまっていたデュエルディスクの持ち手を知らず知らず握り潰していた。
一部始終を傍で見ていたラモンの部下の一人が、隣の仲間にそっと耳打ちする。
「先生が来てから、ラモンさんのデュエルディスク潰れるの何個目だっけ……?」
「さあな、俺も分かんねえけど十個は軽く超えてんだろ」
そんな部下たちの会話もラモンの耳には入っておらず、デュエルディスクが惨めにバチバチと壊れていく音だけが響いていた―――。
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一方の鬼柳はというと、無事に優香を送り届けたのだが、どうしても家に寄ってほしいと優香の部屋に強引にあがらされていた。
幸いラモンとは一緒に暮らしておらず優香一人の家だとはいえ、優香の意図が分からず流石の鬼柳も困惑せざるを得ない。
呑気にお茶を運んできた優香に、鬼柳は口を開いた。
「優香、用件はなんだ」
「鬼柳さん、たまに家まで送ってくれるでしょ。それのお礼でもあるかな」
机にお茶を置いて、優香はにっこりと笑顔で答える。
家まで送っているというより、送らされている気がするのだが鬼柳は黙っていることにした。
「礼なんていい……用件はそれだけか? なら俺は帰らせてもらう」
「わー! 待ってよ、鬼柳さん! まだ用件はあるの!」
立ち上がろうとした鬼柳を、優香はあわてて制止の声をかける。
仕方なく鬼柳は再び腰を下ろし、優香の話を聞くことにした。
「鬼柳さん、デュエル教えてよ! 私もラモンのおじさんの右腕になるくらい強くなりたいなって思って」
「デュエルを教えてもらうなら他の奴に頼めばいい。なんならラモンでも良いだろ」
「だって皆、私とデュエルしたら手加減してわざと負けるの。ラモンおじさんまで負けるんだよ。理由は分かんないけど……」
たまに優香は仲間とデュエルすることがあるのだが、どの相手も優香に好意を持っており気に入られようとしてか手加減してわざとデュエルに負けていた。
おかげでデュエルの腕は大して上がらず、理由さえも気付いていない優香は困り果てていたのだった。
もちろんの事であるがデュエルをした相手に鈍感でもある優香が好意など抱くはずもない。
未だ手加減する理由に悩む優香をよそに、鬼柳はすぐに手加減する訳を悟る。
「もしかしたら私が女だからって舐められてるのかな。デュエルに男も女も関係ないんだけどなぁ」
「別にあいつらはお前のことを舐めてるわけじゃねえよ」
「どういうこと?」
意外な鬼柳の言葉に、優香は不思議そうに首を傾げる。
「おそらく優香に気に入られたいが為にわざと負けているんだろう」
「そうかな〜、デュエルにわざと負けてまで私なんかに気に入られたいのかなって感じだけど」
冗談だと思っているのか優香は苦笑しながら否定する。
あまりに優香は、自分の魅力に気付いていないと鬼柳はつくづく思う。
わざと負けたところで優香に気に入られる訳もないが、クラッシュタウンのデュエリストがデュエルにわざと敗北するという事は奴らの気持ちは本気なのだ。しかも女などの為に。
そんな奴らの気持ちを笑っていつも流す優香を、鈍感という域を最早超えていると鬼柳は改めて感じた。
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