遊戯王夢
□鈍感レベルMAX
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▼暮夜鴇さまに捧げる相互記念夢
長髪鬼柳さんお相手で、鈍感ヒロインに色々振り回される話。
デュエルに支配された街―――クラッシュタウン。
本日の夕暮れにあるデュエルタイムが、今まさに終わりを告げようとしていた。
「『インフェルニティ・デストロイヤー』でダイレクトアタック」
新たにラモンのグループに雇われた用心棒こと鬼柳が攻撃宣言をする。
相手のマルコム側のデュエリストの場にはモンスターもおらず、そのまま攻撃が通りライフがゼロになると鬼柳の勝利でデュエルは終わった。
しかも鬼柳のライフは減っておらず、先攻二ターン目で決めるという圧倒的な実力も同時に見せつけたのだ。
これで鬼柳は二十連勝中となり、ラモン側のデュエリスト達は派手に騒いで喜ぶ。
鬼柳は周囲の歓声に耳を傾けることもなく、早々と広場から去ろうとする―――
が、見覚えのある少女が自分の身体に飛び込んできた為、鬼柳の足は必然的に止まってしまった。
「さっすが鬼柳さん! これでもう二十連勝だよー! ラモンのおじさんよりも強いんじゃない?」
「……優香、見ていたのか」
仮にもマルコム側の人間からは死神とも恐れられる鬼柳に馴れ馴れしく抱きつく少女――――優香。
叔父のラモンの事をおじさんと呼び親しみ、ラモンも姪という関係を超えて優香を溺愛していた。
実際優香は顔やスタイルも良ければ性格も良く、ラモングループだけでなくクラッシュタウンのアイドル的存在でもある。
そんなアイドルの優香と傍から見てイチャつく鬼柳を、当然妬ましい目で睨む輩もいるが、
当の優香はアイドルという自覚もなければ、自分を見つめる男の視線さえも全く気付いていない様子であった。
「当たり前だよ、鬼柳さんのデュエルを見忘れた日なんか無いもん! 今日だって寝過ごして遅れそうになったけど猛ダッシュで来たんだから」
「そりゃ、ご苦労だったな……ほら、俺からさっさと離れろ」
何も知らず呑気に喋る優香を、鬼柳は自分の身体から慣れた手付きで引きはがす。
優香が抱き着いてくるのは常に日常茶飯事で、鬼柳も優香の扱いには自然と馴れていた。
簡単にあしらわれ、優香は頬をぷっと膨らませるが、鬼柳は見ていないフリをしてその場を去ろうとする。
しかし、またもや鬼柳の前にもう一人見慣れた男が現れた。
「いやぁ、先生ー! 今日も素晴らしい勝利でしたね!」
「あ、おじさん!」
ニコニコと笑顔で鬼柳の元へと駆け寄ってきたのはラモンだった。
叔父の登場に、優香はパっと顔を明るくさせる。
ラモンは可愛い姪である優香に満面のスマイルで手を振ると、すぐに鬼柳の方へと向きなおす。
「先生、この調子でこれからも頼みますよ! なんたって先生は我らラモングループの柱なんだからな。―――ですが」
最後の「ですが」を強調してラモンは鬼柳の肩を掴むと、耳もとへ顔を近付けた。
そして、ドスの利いた低い声でゆっくりと囁く。
「だからといって、私の姪に近付いて良いという訳ではないですよ……? いくら先生でも優香は誰にも渡しませんぜ」
「安心しろ、お前の姪のことはそんな目で見ていない」
ラモンから漂う黒いオーラに優香以外の周囲の人間は怯えきっていたが、鬼柳は一切ひるむこともなく答える。
一方の優香はなぜ他の皆が怯えているのが分からない様子で、恐らく今の鬼柳達の会話は聞こえていなかったのだろう。
聞こえていたとしても、年の割にまだまだ子供な優香に意味が分かるのかは定かではないが。
「何言ってんですか! 私の優香はネオ童実野シティにもファンクラブがあるほどの可愛さで、スタイルも某雑誌モデル並いやそれ以上に完璧、この荒んだクラッシュタウンに住んでいるというのに、まるで赤ん坊のように純粋でそりゃもう可愛いんですよ! 先生程の男なら優香を自分色に染めたいと思っているに違いないでしょう! いや、むしろ優香の魅力に気付いてない訳が……」
鬼柳が間に入る隙間もなく、ラモンは鼻息を荒くして優香の魅力を語り始めた。
クラッシュタウンの住民なら優香以外誰もが知っている常識だが、ラモンが一度優香についてペラペラ語り出すとキリがない。
これ以上ラモンと付き合っても無駄だと感じた鬼柳は、ラモンをほって近くの自分のD・ホイールに乗ろうとした。
だが、逃がすまいと再び優香が鬼柳の背中目掛けて飛び込む。
「優香、今度は何だ……離れろと言ってんだろ」
「えへへ、おじさんと話終わったんでしょ。帰るのなら私も乗せて行ってほしいな〜」
「徒歩でも充分帰れる距離だろうが」
「だって歩くの面倒だし、鬼柳さんと一緒にいたいもん」
優香は鬼柳に後ろからギュッとしがみつき、一向に離れる気配はない。
頑固でもある優香は、一緒に乗せてもらえるまで鬼柳から絶対に離れないだろう。
今までに優香にこういったおねだりをされた事は何度かあるが、結局鬼柳はD・ホイールに毎回乗せてやる派目になるのだ。
さっさとラモンに気付かれぬうちに逃げたいというのに、鬼柳は困るしかなかった。
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