男塾夢
□回りだした恋ごころ
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ショッピングモールから帰路の途中、無言で二人は歩いていた。
その最中、影慶が樹里の荷物を持ってくれたりと、少なからず会話はあったが。
もうほとんど人気のない道に入り、男塾まであと少し、といったところで、樹里は足を止めた。
「あの、影慶さんっ。あらためて今日はありがとうございました、私の買い物に付き合っていただいて……」
「気にするな、普段男塾から出れぬ不自由な身だ。今日くらいは楽しめばいい」
横にいる影慶に深々とお辞儀する樹里に、影慶も足を止めて一瞥する。
「ただ影慶さん、今日つまらなかったですよね。私と一緒のせいで変なトラブルにも巻き込まちゃったし」
変なトラブルとは、もちろん女子高生のナンパのことだ。
影慶を一人で待たせた時間も多く、邪鬼からの任務とはいえ、今日は自分のせいで無駄な時間を過ごさせてしまっただろうと感じていた。
「いや、それはない」
「そんな無理しなくても……」
「俺のこと、格好良いと思っているのだろう?」
「えっ、えっ〜! さっきのやっぱり聞いてたんですか!?」
突如影慶から不意を突く発言が飛び出し、樹里は思わず声を上げ、目を丸くして驚く。
「当たり前だ。他は俺に服をうれしそうに選ばせていたな、かわいらしかったぞ」
「か、かわいらし……」
普段はポーカーフェイスが多い影慶も、この時ばかりは樹里に向かって、意地悪な笑みを浮かべる。
一方、樹里は恥ずかしい言葉が続き、どんどん紅潮していった。
おとなしくなった樹里の肩に、分厚い革手袋に覆われた影慶の手が優しく添えられ、耳元まで顔を寄せると、樹里はビクッと反応する。
「――今度外出許可が出た時は、俺が選んだ服を着るんだな」
樹里に対して低い声でそっとささやく。
そして影慶は添えた手を静かに離すと、何事もなかったように再び歩き始める。
樹里はポカンとして、しばらく影慶の背中を見つめていた。
「え、影慶さんと二人きりで私服だったから今ドキドキしてる、だけだよね……!?」
胸に手を当てて、鳴り止まない心臓の音を確認しながら、樹里は男塾に帰れば、元に戻ると信じるしかなかった。
――しかし、実際は男塾に戻っても、学ランを着ている影慶に対してもドキドキが止まらず、仕事がはかどらなかったという。
fin.
→おまけ