男塾夢
□回りだした恋ごころ
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「ふう、今日はこれくらいかな」
服や女性用品など、ひととおり購入した樹里は、両手に紙袋を下げて、影慶の元へ向かっていた。
先ほどまで女性下着店に行っていたので、影慶とは少し離れた場所で待ち合わせをしている。
女性の買い物の付き添いなんて退屈だろうに、命令とは言え付き合ってくれる影慶には感謝しかなかった。
しばらくして影慶の姿が見えると、なんとその周辺に女子高生らしき女性、しかも二人が影慶を取り囲んでいた。
「お兄さん、格好良いですね! 彼女いるんですかぁ?」
「お礼に番号教えてください〜!」
傍から見れば、若い女性に囲まれハーレム状態の影慶。
もし此処に虎丸や冨樫がいれば「影慶先輩が女子高生にモテモテじゃぁ〜!」「ワシらも混ぜんかい〜!」と突っ込むだろう。
だが、樹里は勿論突っ込むこともできず、状況も飲み込めないまま呆然としていた。
樹里の存在に気付いた影慶は、目にも止まらぬスピードで隣に立つと、樹里の肩を抱いた。
「俺には連れがいる、他を当たってくれ」
「ふえっ!?」
ふいに急接近され、情けない声を上げた樹里であったが、次の瞬間には先ほどの位置から移動し、出口へ向かっていた。
高校生たちは「彼女連れかよー」と文句を言っていたが、突然の状況に理解できない樹里の耳には届いていなかった。
肩を抱かれているせいか落ち着かない様子の樹里に、影慶はすぐさま肩から手を離す。
「すまん、あの女どもは財布を目の前で落としたから声を掛けただけなんだが……。どうやら変な勘違いをしたらしい」
「そうだったんですか」
ようやく状況を理解した樹里。
だが、先ほどまで影慶の顔が近くにあったため、しばらく心臓の音は鳴りっぱなしであった。
いつもと違う環境だから? と自答しつつ、まともに影慶を見ることができない。
「それにしても、あのような年代の女子が俺に興味があるのが不思議だな」
「最近年上男子とか流行していますし、影慶さんかなり格好良いから……」
そこまで話して樹里はハッと口をつぐむ。
今とんでもない事を口走ってしまったと後悔したが遅い。
口元に手を添えて、ドキドキしながら影慶を見てみると、特に気に止めることなく、「そうか、分からぬな」と呟くだけであった。
聞かれなくて良かった、と安堵した気持ちと、絡まれなかったという残念な気持ちが同時に樹里を襲う。
「あと樹里、必要なものはそろったか?」
「は、はい、必要なものは全部買えました」
影慶が待ってくれていたおかげで、樹里の生活に必要な物品は大体そろった。
これでしばらくは買い物も行かなくて済むだろう。
影慶はその返答を聞くと、ショッピングモールを出て、男塾の方角へ歩いて行き、樹里もその後を追いかけた。