遊戯王夢

□カラスのリンゴは落としにくい
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優香の家までは此処から歩いて二十分ほど掛かるそうだ。
交通機関を使おうと俺は提案したが、優香が俺と話をしながら歩きたいと言うのでやめた。
よく考えれば、優香と過ごせる時間が長くなるわけだし、優香と居ると自然と俺も気が楽だった。



「ところでブレイブくんの持ってたリンゴって、ネオ童実野リンゴ?」


ふいに隣に歩く優香から尋ねられた。


「あぁ、そうだぜ。今日は仲間に頼まれて買いに行った隙にスラれちまったけどな」


おかげで優香と会うことが出来たが、というのは照れくせぇから黙っておく。


「ちょうど良かった〜、ネオ童実野リンゴならウチに沢山あるの。知り合いの人に貰ったんだけど食べ切れなくて困ってて」

「あんな高級品、よく貰えるな〜……。まさか優香の家って金持ちなのか?」

「そ、そんな訳ないじゃない。お金持ちだったらバイトなんてしてないし」

「バイトって何してんだ?」



これはバイトしていると聞いてから気になっていた疑問だ。
水着が仕事着って言うらしいが……流石に初対面でこういう質問はオトナとして慎むべきだったか?
後になって後悔するが優香はそんな俺に構わず、むしろ嬉しそうに答えた。



「ふふっ、海でお手伝いをしてるんだ。――私、海が好きなの。あの青い海を眺めてると、嫌なことも全部吹っ飛ぶし! 元気が出るのよね」

「俺も海は好きだぜ、優香の言う事も分かるなー。でも海の中に居てるともっと元気が出るんだぜ!」

「え、海の中に入った事あるの!?」


俺にとっちゃ大した話ではないのに、優香はとても驚いたようで俺に顔を向ける。


「あぁ。昔トレジャーハンターやってたから、海に入るなんて俺にとっちゃ軽い運動だな」

「そうなの!? ねぇねぇ、その話詳しく聞かせて!」



それからお望み通りトレジャーハンター時代に世界中のお宝を頂戴してやった話をすると、
優香は「すごい! すごーい!」と目を輝かせながら俺の話を真剣に聞いてくれた。
今まで女の子に同じような話をしても、適当にリアクションを取るだけだったのに、優香の反応は随分と新鮮だった。


「海が好き」という共通点を見つけた俺と優香は、すっかり盛り上がっていた。
どうやら優香も一緒に海を語れる奴がいなかったらしく、俺のどんな話にも喜んで耳を傾けてくれた。
同様に俺も優香が語る話は、俺の中で一番面白い話だったかもしれねぇ。



――たった一時間前くらいに会っただけなのに、此処まで心を許した奴は初めてだ。
それだけ優香の存在は、俺の中で急速に大きくなっていた。
まいったぜ、トリックスターの俺がデュエル以外で、しかも女の子に振り回されるなんてな……ハラルド達や子供達が知ったら何てからかわれるか。



ふと、隣を歩く優香の横顔を見つめる。
そしたら、優香と目が合って慌てて視線を逸らした。


やはり、だ。
たかが一瞬目が合っただけなのに、一向に落ち着かねぇ心臓。
ってか、ドキドキしてるのは前からだし今更んな事言ってどうすんだ、俺。
段々と自覚してきた優香に対する自分の感情に、おのずと顔が熱くなっていく。



もしかして初めて会った時から、俺は優香が―――……
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