二万打企画

□魔物に育てられた少女
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依頼を済ませる為にやって来た森林。
本来なら鳥や虫の声、草や木々の揺れる音しか聞こえないであろう場所。
時折獣や魔物の声が聞こえるが、今は人の、二人の少女の声が辺りを支配していた。

「何で根暗ッタがここにいるの!?」
「アリエッタ、根暗じゃないもん!アニスの意地悪!」

アニスに負けず劣らず大きな声で反論する桃色の髪の少女。
何の動物なのか、もしくは動物以外なのかさえ分からない奇妙な格好のぬいぐるみを両手で抱き抱えている。
本人のお気に入りなのか、大切な人から貰ったのか。
恐らく両方だろうなとロアは思った。

「知り合い?」
「面倒臭いんで簡単に言いますが、ヴァンの部下です」

言い争いをしているアニス本人ではなくジェイドに尋ねる。
ジェイドは周りから胡散臭いと表される笑みを浮かべたまま答えた。
アニスとアリエッタという名の少女の口喧嘩は収まるどころかヒートアップしている。

「後ろの魔物は退治しなくていいの?」

言い争いをしている二人の後ろ、アリエッタの後ろには二体の魔物がいる。
魔物の姿に武器を構えたもののアニスとアリエッタのやり取りにすっかり戦意がなくなってしまった。
傍観者に撤しているジェイドの戦意は全くない。

「アレは彼女の友達だそうですよ。彼女が命令しなければ放っておいて構わないでしょう」

魔物を見るロア。
魔物達はアリエッタのやり取りをただ見守っているという様子だった。
敵意がないので敵ではないないだろうと武器を納めた。









二人が口喧嘩を始めて数分。
口喧嘩はまだ終わらない。
そろそろ止めるべきかと動こうとした時、草木が不自然に揺れる。
腰に提げた武器を握り締める。
揺れる草木の中から姿を現したのは金髪の少年だった。

「エミル!?」
「ま、マルタ!?な、何でここにいるの?」

エミルに驚き叫ぶマルタ。
エミルもマルタがいることに驚き、緑の目を大きく見開いている。

「こんな所で会うなんて……!やっぱり私とエミルは赤い糸で結ばれているんだね」
「な、何でそうなるの……?」

腕に飛び付いてきたマルタの勢いに押されるエミル。
すっかりお馴染みになった光景にため息が一つ。
そんな中、ロアは首を傾げた。

「何でここにいるの?」
「僕はアリエッタと……」
「おや?こんな所で逢引きですか?」

エミルが言い終わる前に言うジェイド。
温度が下がった原因はエミルに嬉しそうに抱きついていた人物だ。

「あ、逢引き!?ち、違います!彼女は……」
「エミル!どういうこと!?」

慌てて弁解しようとするエミル。
しかしエミルが説明するより早くマルタが眉を吊り上げたまま問い詰める。
その剣幕にエミルは思わず一歩足を引いた。

「ど、どういうことって……彼女は僕の……」
「エミルのバカーッ!」

走り去るマルタ。
去っていくマルタの姿が見えなくなるまで見送るエミル。


「ま、マルタ!ご、誤解だよ!」


呆然と佇んでいたエミルは慌ててマルタを追い掛けた。
そんなエミルを見送るロアとジェイド。

「いやー、ややこしいことになりましたね」

明らかにそのややこしいことの元凶であるジェイドはにこやかに言った。
いつの間にかアニスと少女の口喧嘩は終わっていた。
 
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