二万打企画
□聖なる焔と魔の戯れ
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僕であるセンチュリオン達に命令を一通り出したラタトスクは心なしか早足でエミルのもとへと向かう。
木々が茂る中見付けた人物に歩み寄ろうとしてその人物の向こうにある光景にラタトスクの足が止まった。
足が止まった際に小枝を踏んだ音と馴れ親しんだ気配にエミルは後ろを振り返り労りの言葉と共に笑みを向ける。
いつもならば同じように笑みを返すが、ラタトスクの視線は一点を向けたまま動かなかった。
「何だ、これ……」
「あ、これ?ちゃんばらごっこだって」
思わず呟かずにはいられなかったのであろうラタトスクの呟きにエミルは答え、肩に乗っている兎の姿を模した魔物、ワイルドラビットに同意を求めた。
同意を求められたワイルドラビットは深く頷きその通りであることを示す。
「ちゃんばらごっこ……」
一時的に預かることになった少年、ルーク・フォン・ファブレ。
彼の片手には確かに木刀があった。
手の中にあるソレを魔物達に当てようと振り下ろしては魔物達にひょいと躱され、こっちだぞと挑発される。
挑発されたルークは追い掛けては振り下ろすが、また躱される。
振り下ろす、躱す、を延々と繰り返している姿に厭きないかと思ってしまうが、魔物達は楽しそうだ。
「随分と面白がってるな……」
必死なルークで遊んでいる魔物達。
ここにいるのは飼い馴らされた魔物とは違い野生の魔物。
子供の剣筋など容易く躱すことは出来るだろうが、木刀を振り下ろしてくる相手で遊ぶのはどうだろうか。
そこまで考え真剣でないから大丈夫かと考えることを放棄する。
一番大事なことはエミルと預かっている子供ルークが怪我をしないことだ。
自棄に必死なルークは気になるが、当たらなくてムキになっているのだろう。
「皆楽しそうだね」
「そうですねぇ」
ひょっこりと現れた黒い影に赤い瞳が細められる。
「テネブラエ、俺の命令はどうした?」
「ちゃんとやっていますよ。今は休憩中です」
「休みなんざいらねぇだろうがお前等は」
ふざけた応えにラタトスクの額に青筋が浮かぶ。
だが、主の怒りっぽさには慣れているテネブラエは何処吹く風とその場に居座る。
そんな姿に二人は軽く首を傾げた。
「テネブラエ、何かあった?」
「何もありませんが、どうしました?」
「どうしたって、何だかいつもより機嫌が良いみたいだから何かあったのかなって……」
「そうですか?エミル様の気のせいでしょう」
「そうかな?」
「そうですよ」
テネブラエの言葉にエミルは首を傾げながらも納得する。
隣に立つラタトスクはまさかと駆け回っている子供を見た。
そして疑いの眼差しをテネブラエに向ける。
その視線にテネブラエは手にもなる器用な尾を緩やかに振った。
「お前……」
呆れたようにラタトスクはテネブラエを見つめ溜め息を吐いた。
「エミルにバレても知らねぇぞ」
「ラタトスク様が話さなければ大丈夫です」
その言葉に話してやろうかと考えるが、止める。
エミルに告げ口をするつもりがないことに僅かに安堵しながらテネブラエは魔物に力を示そうとしているルークを見た。
ルークは逃げ回っているチュンチュンを倒そうと追い掛けている。
「平和だね」
「そうですね」
エミルの肩に乗っていたワイルドラビットはひょいと肩から降り、ルークのもとへと駆け寄った。
近くにいる魔物を木刀片手に追い掛けるルークの姿にラタトスクは再び溜め息を吐いた。
The End……