捧げ物
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ジュウゥッという音がする。
色とりどりの野菜は火が通っているのか、少ししんなりとしていた。
火を止めた瞬間、横から伸びる手。
「あっ!」
気が付いた時にはもう遅かった。
作ったばかりの料理はラタトスクの胃の中だった。
「もー、摘み食いしないでよ」
「いいだろ?一つくらい」
怒るエミルに悪びれなく答えるラタトスク。
最初から一つだけのつもりだったのか、手を出す素振りは見当たらない。
「一つでも駄目」
腰に手を当て怒るエミル。
許容範囲だったのか、あまり怒ってはいない。
忙しくはないからこそあまり怒っていないのであって、これがいつもの朝の光景だったらかなり怒っていただろう。
今日が学校の朝ならばラタトスクも摘み食いなどしない。
「何で朝から昼飯なんか作ってんだ?」
もう一品作るために具材を切り始めるエミル。
ラタトスクはそんなエミルの邪魔にならないように後ろから細かく刻まれていく具材を眺める。
「今日図書館に行こうと思って」
にこやかに具材を刻むエミルに納得したように頷くラタトスク。
以前から読みたい本を探していたが、ようやく見付かったらしい。
二人分の食事を作ってはいるが、食べないだろうなと思うラタトスク。
恐らく本に集中してしまい、昼食を摂ることなど忘れているだろう。
「ラタトスクは行かないでしょ?」
「……行かねぇ」
顔を後ろに向ければ眉を潜めたラタトスクの顔がすぐ目の前にある。
行かないことを前提としたエミルの問い掛けに不機嫌になっているラタトスク。
ラタトスクが不機嫌なことに気が付いたエミルは目の前にある唐揚げを一つ掴み閉じた口へと持っていく。
どういう意図か気が付いたラタトスクが口を開けると放り込まれる唐揚げ。
餌付けのようで面白くないが、美味しいので文句は言えない。
先程よりか機嫌の良くなったラタトスクにエミルは小さな安堵の息を吐いた。