寓話

□Space Dog
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秋風はかなり冷たくなり、もう真冬と言っても過言ではないのかもしれない。よく考えると昨日テレビで寒気が流れ込んでくるとかで、寒さが12月並みになると言っていた…気がする。できる事なら外出したくない気候だな、と感じてしまった。

隣を歩く太子を見るとやはり寒いらしく、鼻が赤くなっているのだが・・・その表情は子供のように楽しそうに笑っている。
うっかりその表情に見惚れていると視線に気づいたのか、どうした?とこちらを向いてくる。

「あ、いえ…何故急に花を買いに行くのか気になりまして!」

見惚れてただなんて言える筈無いだろ!と心の中でツッコミをいれ、慌てて尤もらしい事を口走る。

「あぁ。お花は“彼女”にあげるんだー。」

−彼女−という単語が脳内に響き、外の寒さとは関係なく指先が冷えていくような感じがした。

「毎年、11月3日にはお花を買っているんだ。今日は彼女が星になった日だから」

空を見つめるその瞳が、どことなく慈愛を含んで居る様な気がして…僕は唯、そうですか。としか返すことが出来なかった。

「なぁ、妹子はスプートニク2号っていう人工衛星を知っているか?」

「いえ…」

太子の話によると、50年代の11月3日にスプートニク2号という人工衛星が宇宙基地から発射され、その中に乗っていたのが彼女−ライカ−という名前の犬だったらしい。
初めて衛星軌道に到達した宇宙船だったらしいのだが、再び大気圏に突入することができない設計だったという。
正確なことは判らないが“ライカが11月3日、星になった”という事実には変りが無いので、毎年花を供えている。という事だった。

「私達の技術の為に、彼女は星になったから…私達は彼女に精一杯の敬意と感謝を表さないといけないんだ。」

「毎年やっているのなら、何故今年に限り僕を誘ったんですか?」

花を買う理由が判った後浮かんだ疑問が口からこぼれた。太子のことだから、何となくだの、気紛れだの、そういう理由だろうと自分の中で結論付けてはいるのだが…

「え?うーん……妹子なら、どんな花を選ぶのかが気になったんでおま。」
−私は毎年、似た様な花しか選べないから−

そう言うと僕に向かって苦笑を浮かべた。その表情が…例えるなら悪戯が見つかった子供の様に、バツが悪そうで。僕は本日何度目か判らない溜息をついた。

ソレを…僕が不機嫌になったと解釈した太子が慌ててうろたえる様子が本当に子供みたいで、大丈夫ですよ。という気持ちを込めて、太子の冷たい手を握る。すると、途端に子供の様に笑うから−太子には敵わないな−と実感してしまう。
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