ぎんたま2

□口にはできない栄養剤
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すっぱい失敗の土方視点です。単独でも読めます。




手を繋ごう、と言われた。ハタから見たらひどく馬鹿馬鹿しい申し出かもしれない。これだけいろいろやり尽くして、いまさらそんなことを、と。まして俺とお前で。男同士なのに。

恥ずかしいくらい黙りこくって、息を吸うのも忘れて。ん。と返事とも呼べないようなそれで済ませてしまったけれど、お前はちゃんと気づいてくれて。差し出された手は思いの外剣蛸やなんかでふしくれだっていて、固い。なにより悔しいことに、身長や背格好は変わらないのにお前のほうが手が大きく、指はしなやかでいて太いのだ。その手が、俺よりも俺のことを知っていて、ひょっとすると俺よりも俺に触れているかもしれない手が、触れる、絡まる。次第にきつく、きゅっと締められた。汗ばむ手のひら。
心臓からずいぶん遠いところにあるはずなのに、俺の左手は俺のこころをすべてばらしてしまおうと、その指先からお前の右手に一直線に、ドクドク、ドクドクと、『好き』を大声で叫んでいるのだ。

上の空になった思考と筆を置いて、握った手の感触を思い出す。意味なくグッパグッパなどしてみる──。

「副長、なに思い出し笑いしとるんですか」

息が止まりかけた。

そうだった。今は真選組の自室。さらに言えば仕事中、だ。顔が熱くなるのがはっきりとわかった。一パーセントの怒りと、九九パーセントの恥ずかしさで。この間コンマ一秒。

「や、山崎ィィィィィ!てめ、入る時はノックしろっていつも言ってるだろうがァァァ!!」

手近にあった灰皿をフリスビーの要領で投げるはずが、さすがは監察とでも言うべきか、こんな時に限って兎よりはるかに速いスピードで逃げやがった。あの野郎、仕事でそれを発揮しろと言うのに。
仕方なく振り上げた灰皿を戻し、懐からマヨボロを取り出して一服。ああ落ち着く。やっぱりニコチンは最高だ。

「………。」

流れる紫煙を見て、思う。

銀時。

──気持ち良くて、気持ち悪いとお前は言ったな。それはどれも正解で、正解じゃあない。

じゃあ何かって?ただただ幸せなんだよ。お前とならなんだって。


口にはできない栄

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