ぎんたま2

□群青色の夜と真夜中の子ども
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開け放した障子から漏れる月明かりが遮られたのを感じて、そこで初めて戸口に人が立っているのに気がついた。

「土方さん」
「どした?総悟」
「土方さん、」
「なんだよ、今日はどうしたんだ」
「土方さん」
「んなとこ突っ立ってないで来いよ」
「土方さん」

まるでそれ以外のことばを忘れてしまったかのように目の前の少年は繰り返す。

「ほらこっち」
「土方さ……」

腕を取ると懐に引き込む。何の抵抗もなく、総悟は俺の足の間に収まった。

「ったく、ガキの頃から変わんねーな、お前は」
「土方、さん」
「おーよしよし」
「………子ども扱いするんじゃねぇよ」

口調とは裏腹に、拗ねるような声音にはなおも不安そうな色が含まれていた。

「ガキだよ」

俺もお前も。

ぽんぽん、とリズム良く震える背中をたたいていたら、腕の中の子どもはおとなしくなったと思うと、いつの間にか柔らかい寝息が聞こえてきた。

「大丈夫だ」

大丈夫だよ。

「俺たちの大将は見た目通り頑丈にできてるんだからよ」

「な?」

さらさらと胸元に流れてくる亜麻色の髪を鋤いてやると、そっと畳の上に横たえた。
この分だと本人の部屋に運ぶのは無理そうだ。ほとんど作業が進まず手付かずだった書類をひとまとめにして文机を隅によけると、襖から布団一組を取り出す。
穏やかな寝息に安心すると、背中と腰に手を差し入れてその上に寝かせた。
前髪から覗く伏せられたまつげがしっとり濡れていて、無性に愛しさが込み上げてきた。

眠りを妨げぬよう静かに同じ床に滑り込むと、わずかにはみ出た肩に布団を引き寄せて掛けてやる。
そうしてあとは何もすることがなくなって、視線が天井と左隣を何往復かした頃には瞼が重くなっていた。

「総、悟。お前がいてくれるから、俺は強くなれ…だ……」

呟きは二人きりの空間に溶けて消えていく。





─おやすみなさい、───さん。

一定の呼吸音が聞こえてきた頃、静寂が包む部屋で、そんな声がした。気がした。


群青色の夜と真中の子ども




………………………
近藤さんが負傷したある夜のふたり。
沖田が脆くなるのは近藤さんとミツバさんがらみのことだけ。土方さんがらみのことなら実力行使でなんとかします。
土方さんは兄のような、どこか姉代わりのような存在であってほしい。近藤さんが側にいない時、唯一甘えられる大人。総悟自身が甘えることを許している相手。

総悟は隊長という立場上、他の隊士の前では完璧なポーカーフェイスでいなきゃいけない、と私情を挟まず誰よりも耐えていると思います。
一方の土方さんは、こういう時こそ近藤さんの空いた穴を埋めるのは自分しかいないと思って日中は仕事人間を務めているんじゃないかなぁ


なんだかあとがきが長くなってしまいましたね

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