ぎんたま2

□予定調和とか、そういう。
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七夕だ短冊だなんだと騒がしかったのも昨日までの話で。
加えてこのところ、別段事件らしい事件もなかった。よって今朝、早くから非番である沖田と数人の平隊士を引き連れて近藤はのんびり近くの川で七夕送りを行ったわけである。沖田自身はいい加減子どもじみた遊びとわかっていたが、他でもない近藤の誘いとあらば、一も二もなく頷いてみせた。
最も、普段の発言とそう変わらない物騒な願いを笹の葉に吊るしては上司に大層嫌な顔をされて喜んでいたあたり、十分楽しんでいたのかもしれないが。

それ以外はなんら変哲もないごくごくありふれた日常の一コマとして、時間が流れていった。

そして夕刻。
豪勢、と言うのに相応しい食事と酒宴。頼まれてもいないのに脱ぎ出してはめでたいめでたいと祝う組の頭にして幼なじみ。見渡せば見慣れた面々が、思い思いの方法で、本日の主役を祝っていた。
畳の上に散らばる箸や倒れた猪口、そして御膳と酔い潰れた隊士の間を縫うようにして沖田はひとり大広間を抜け出た。

広間の喧騒も遠く、人気はおろか灯りもない廊下をひたひたと歩いていると、沖田は前方に浮かぶ小さな明かりを見つけた。それに細く長い煙と見馴れたシルエット。

「──土方さん?何やってんです、廊下なんかで」
そういや、途中から姿が見えないと思った。
「ああ、総悟か。ちょっといつもより早く酔いが回っちまってな、夜風に当たって一服してた」

なるほど確かに告げる土方の頬や目元は赤みがさして、どことなく幼い顔つきである。
そういうお前はと今度は土方が目で問う。

「俺ァいい加減部屋がむさ苦しい空気でいっぱいになったんで、ションベンでも行こうかと」

思いやして、と続く言葉とは裏腹に、沖田は土方の隣にどっかと腰を下ろすとあぐらを掻いた。そんな沖田を土方も黙って一瞥するがすぐに正面の池へと視線を戻す。

暫し続いた沈黙を破ったのは土方だった。

「なぁ」
「なんですか」
「そういや、俺の短冊は飾らねぇまんまで部屋の文箱に入ってるんだが、ちょっと行って、取ってきてくれるか?」
「土方さん、アンタ俺を一体なんだと思ってるんでぃ。
織姫や彦星じゃなけりゃ、サンタでもありませんぜ?アンタの願いなんざ叶えられませんよ。まして俺に教えたら実現する可能性も低くなるってもんでしょう」

そこで沖田は言葉を切った。

「ちょっとは学習したらどうです?」

大元の原因は自分でありながら、沖田は呆れ半分、同情半分に土方を見上げた。
しかし、予想に反して土方の横顔は穏やかで。

「なに、「でも」




「お前は頼まれてくれるんだろ?」

にやり。
不意に沖田の方を振り向いた土方は、一音一音を確かめるように言った。

「───ッ、アンタはどこまでもバカですねぃ!」

そういうところ、近藤さんに似てきやした。
鉄之助に言うか自分で取って来いよ、と普段の自分ならまずそうさせていただろうに。
沖田はしぶしぶ立ち上がると、そのままのろのろと副長室へ向かった。

「失礼しやーす」

言葉の割には足で障子を開けるあたり全くなんとも思っていなさそうな沖田であるが、とりあえず土方の文机にたどり着くと、開け放した外からの月明かりを頼りに文箱の中を探る。さしたる苦労もせずほどなくそれは見つかった。
なんだか良い様に使われているようでおもしろくない。自然沖田の目は彼の人の字を辿る。

「………は」




***




ダダダダダダダと行きとはうってかわって威勢のいい足音が近づいてくる。そして遠くから雄叫びも。

「ひーじーかーたコノヤロー!どういうつもりでいこれは!」

声のする先を見ても、土方の視線の先に映る相手は、まだ遠い。
ただ、自分のようには酔っていなかったはずの彼の顔が朱に染まっていることだけは土方にもわかって。

「…こういう日には、サプライズが付き物なんだろ?」

握りしめた短冊を認め、クッと土方は堪えきれずに顔を綻ばせたのだった。





予定調和とか、そういう。


………………………………
かくして二人は収まるところに収まりましたとさ。

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