ぎんたま2

□蹴りたい背中と、そして
1ページ/1ページ



廊下の角を曲がって、問答無用で戸を開ける。
ソレ、を大きく振り上げて狙いをつける。まったく隙だらけにも程があらァ。

「ひーじかった、さんっ」
「ぐほ!?…っ、てぇ…。テメ、コラ総悟何しやがる」

背中をさすりながら土方コノヤローが涙目でこちらを見上げてくる。あ。その顔いいな。欲情する。
だがそんな心の声はおくびにも出さず。

「いやなあに、呼ばれた気がしたんで。アンタの背中に。蹴ってくれーって」
「ふざけんな誰が言うかんなこと!」
「だから土方さんじゃなくて土方さんの背中だって言ってるでしょ」
「まぁた屁理屈を!…で、本当の要件は何だ?」

用がなきゃあ来ちゃ行けねぇんですかい。
喉元まで出かかった言葉をすんでのところで呑み込む。

「いや、疲れたから仮眠しようと思って来たんですがねぃ。土方さんの姿見たらミョーにむかついたもんで。こりゃ寝れねえや」
「だったら余所行けや。つか仕事しろ」

テメー見廻りはどうした。
尚もそんなことを言う上司を無視して、その真後ろにどっかと座り込む。

「あり?丁度良い所に座椅子が」

全体重を後ろの背もたれにこれでもかとかける。ざまあみやがれ。
調達してきた座椅子ははじめ耳許で煩くがなり立てていたが、次第に言っても無駄と諦めたのか静かになった。

本当に拒絶するなら、抜刀でもなんでもすればいいのに。
だから甘いのだ。

気づかれぬよう、呼吸に合わせてそっと息を吐き出した。





姉上に向けた背中。

あの日俺に向けた、背中。

不本意にも預けている、背中。

追いかけて、追いかけて。
刀を振るった。

追い抜いたつもりで、歩幅を緩められていることに、ある日俺は気づいた。それでも止められない視線とこの感情は、どうしようもない。

どうしようもない。


蹴りたい背中と、そして


殴りたい自分

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ