おくりもの

□文字にのせて
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「………。」

真っ白な紙の上を、たっぷり吸わせた墨が落ちそうになったところで一気に筆を走らせる。

拝啓土方十四郎様

そちらは今はいかがお過ごしでしょうか。俺は、僕は貴方が足りなくて死にそうです。どうしてくれるんですか─。

そこまで書いてふと我に返る。
馬鹿か。豆腐の角に頭ぶつけたくなってきた。黙ってまだ墨の乾ききっていない紙を丸めると、そのままくずかごへ投げ入れる、はずだった。
手元が狂ってあらぬほうへ飛んだ自分の失敗作は、見事な放物線を描いてたった今部屋に入って来た人物の頭に当たった。




土方十四郎その人の元に。


文字にのせて




「……届ける気は微塵もなかったんですがねぃ」
「……オイ。予定より早く出張から帰ってきたってのに随分なごあいさつだな。つーか何投げつけてくれてんだ」

若干こめかみを引きつらせつつ、土方コノヤローはこともあろうに先ほどの物体Xを拾い上げた。なんて悠長に語っている場合ではなかった。まずい。

「ばっ…ちょっと何拾ってんですかプライバシーの侵害だってんでぃ早く返しやがれ」
「俺の頭に降ってきたんだ。第一、お前もコレごみ箱に入れようとしてたんだろ?だったら何の問題もねぇじゃねぇか」

だから問題ありまくりなんだそれ。
とは思ってもとても言えず、口を真一文字に引き結ぶ。おいおい勘弁してくだせぇよ。にらみかけて、手の中のものから相手の注意を反らすことを考える。うまいことばが出てこない。アレをなんとかしないと、自分は恥ずかしさで死ねる。どうする──。



「………なあ総悟」

固まっていたのは数秒か数分か。それすらもわからないでいると、頭上からためらいがちに声が降ってきた。

「なんですか」
「………。…や、呼んだだけだ」

妙な声こそ出さなかったが、肩が揺れたのは気づかれてしまったかもしれない。再び沈黙が訪れる。


「…俺に『おかえり』は?」
「ハァ!?」

今度はいきなり何を言うのか。とうとう変な声が出てしまった。理解に苦しんでいると、いつもと同じ瞳孔の開いた目が、少し目尻が下がってこちらを見つめてくる。何故かはわからないが、その顔を見てことばが自然とこぼれていた。

「お、おかえりなせぇ?」
「うん。ただいま」

ずっと障子の近くに立っていたその人は、スッと俺の横を通ると中身も改めずに手の中のものをくずかごに捨てた。

「え」
「どうせ俺の留守中にやっとけっつった書類はまだなんだろ?あとで付き合うから必ず最後までやれよ」

一瞬、俺はぽかん、と拍子抜けしてしまったけれど。

「当たり前でさぁ。きりきり働けよ土方」
「なにを抜かすかこの馬鹿。そりゃこっちのセリフだ。──ほら、まだ俺ァ帰って来て近藤さんとこ顔出しに行ってねぇんだ。オメーも来い」
「へいへい。土方さんは本当に一人じゃ何もできないお人でさぁ。俺がいなくて京じゃ寂しかったんでしょう」

まったく世話が焼けらぁな。


先ほどまでの沈黙が嘘のように、いつもの軽口が飛び出す。
ふたりで歩く局長室までの廊下は、不思議と昨日までより短くなっていた。

***
上手く言えないけど、好きだから。






……………………
ふたりとも、相手の本当に嫌がることはしないんじゃないかと思います。

みつきさんリクエスト、『原作沖土で甘め、ギャグ』でした〜!
できあがってみると原作というところしか満たしてない気がしますはわわわわ…。こ、こんな文でよければもらってやってください!!リクエスト嬉しかったです!ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします(*^^*)
円屋ちぼこ
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