たからもの

□良薬は時に甘く
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穴が開くんじゃないかと心配になるぐらいに凝視されながら、錠剤を二つ、一気に飲み込んだ。
なんとなく舌に苦味が残っている気がして、それを流し込むために、水を口に含む。空になったグラスを盆の上に戻すと、そこまでを終始黙って見ていた男が、ようやく喋り出した。

「聞いた話によるとアンタ、俺以外の男に隙を見せたとか」

口調はいつもと大して変わりないように聞こえたものの、含みのある言い回しだった。面倒くせぇなと思わなくもなかったが、このまま無視できそうにもなかったため、仕方なく応えてやることにする。

沖田総悟という、ある意味で俺に最も近しいだろうこの男は、何の前触れも無く突然、感情のスイッチを切り替えるところがあった。
普段生活する上では、その起伏はほぼ変化無しに等しい。顔色もよっぽどのことが無ければ変わらないし、若干十八歳にして───まあ良く言えば、腹が座っているとも取れる行動を起こす奴だ。

そんな総悟が、何やら苛立っている。他の人間から見れば、わからないぐらいの僅かな変化。近藤さん、もしかしたら山崎辺りは気づくかもしれない、ちょっとした違い。
本人がそれを認知しているかどうか、定かではない。それでも放っておけば被害は必ず出るし、その概ねは俺に押しつけられる。理不尽だが、それが現実だった。

「お前に隙なんか見せたら、命が幾らあっても足りねぇよ」
「へー、そりゃどうも」
「褒めてねぇ!」

いけしゃあしゃあと、このガキは。
ふつふつと沸く怒りを抑え込み、総悟の言ったことひとつひとつを、反芻する。隙がどうのこうの言い出したのは、向こうからだ。ならばその辺りに、こいつが意識的にかはたまた無意識的にか、不機嫌になった理由があるのだろう。

しかし考えるより先に、展開は進んでいく。
ぐいっ、と肩を掴まれて倒れた場所は、掴んだ方の、つまり総悟の肩の辺りだった。するすると移動した手は容赦無く俺の頭を押さえて、正しくこれで肩の上。
「…なにこれ」と小さく呟けば、ため息を吐かれた。それは俺のだ馬鹿野郎、今すぐ返せ。

「そんなもん飲まねぇと我慢できないくらい疲れてる馬鹿には、やっぱりわかりやせんでしたか」

チッと舌打ちまでしやがった総悟は、その態度とは裏腹に随分と優しい手つきで、するりと俺の髪を梳いた。さっきまでじわりじわりと痛んでいた頭の中が、薬とは違う何かに、和らいでいく。
正直、身長差のせいで肩に頭を預けるこの体勢は首が痛かったが、意外と繊細な指先は憎らしいくらい心地良くて、どうでもよくなっていた。それ以上口を開く気にもならず、力を抜く。自然と目蓋も落ちた。

そんなに欲しいなら、隙のひとつやふたつ、くれてやる。俺の言葉が届いたのかどうかわからなかったが、確かに総悟はその瞬間、笑っていた。

良薬は時に甘く





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いつもお世話になっているスピカのみつきさんより、2万打リクエストでいただきました。ありがとうございます!そして2万打おめでとうございます!
円屋の毛根はゼロです。禿げた。禿げ萌えた。みつきさんの沖土は読んでいてとっても幸せな気持ちになります。かわいいふたりをいつまでも眺めてたいです。本当にありがとうございます!大切な家宝です(*^^*)!


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