たからもの
□歪んでアイロニー
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血を、流しすぎたかもしれない。
何度も戦いの場に身を置くとそのうちに自然、自分の限界はわかるようになってくる。どこがどれくらいやられると動けなくなるか。血をどれくらい流すと動かなくなるか。
まだ戦えないわけではなかったが血が不足気味で、身体が不調を訴え始めていた。これはまずい。こんな戦いの最中で動けなくなれば足手まといもいいところだ。
「土方さん」
これからどうするか考えていると不意に名前を呼ばれた。見れば沖田が襖に寄りかかり、こちらを見ていた。
「随分やられてますねィ」
「致命傷はねーよ」
単に血を流しすぎただけだ。大したことでもない。それでも油断が禁物なのは確かだ。
最初の段階では参加していなかったはずの沖田は緩慢な動きで左手を上げた。その意図が掴めず土方は首を傾げる。一体何だというのか。
「選手交替でさァ」
非常に面倒そうにしつつ、沖田は上げた手をぷらぷらと振る。
「その様子だとかなり体力削られてんでしょうが」
「……」
何だ、アレか。わざわざそのためだけに来たのか。沖田らしくない行動だが、大方近藤あたりの指示だろう。だが、このあたりが限界なのは事実だ。
意地を張って後々命に関わるのも阿呆らしい。ここは素直に従っておくべきだろう。
「何すりゃいいかわかってんだろうな」
「それくらいわかってまさァ」
「それならいい」
擦れ違い様に沖田の上がった手にタッチしてから出て行く。たまには沖田も頼りにな……、
「おい待て。今、手ェ拭きやがったな?」
「だって土方さん触ったんですぜ。そりゃ拭きまさァ」
「……テメー」
前言撤回だ。こんな奴が頼りになってたまるか。
歪んでアイロニー
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泡沫のディーバの朝倉さんより、123123hitのリクエストでいただいたお話。
戦闘中の土方さんのスタイリッシュなモノローグにぐっと心を掴まれ、沖土ふたりのやりとりに燃えて萌えました。この絶妙な距離感…っ!たまりませんっ!!本当にありがとうございます!これからも大切に読み返したいと思います(*^^*)