ぎんたま!

□溺れる
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「イヤイヤイヤ土方コレはほら、あの、だからアレだよアレ」

銀さんお前が感動するようなあんこが出来てるかちょぉぉぉっと味見してただけだから。断じて待てなかったとかじゃないから。

スラスラと言い訳を述べる恋人に文句を言おうと口を開いた土方の声はしかし、言葉にされることはなかった。代わりに彼の口には、きれいなうす茶に焼けたどら焼が押し込まれている。
不満に歪められていた眉間のシワは最早なく、土方の目は驚きに見開かれていた。無言でそれを咀嚼、嚥下(えんか)した土方に銀時は誇らしげに話しかける。

「だから、言っただろ?お前が感動するようにって」
「コレ……ひょっとしてマヨにあんこが入ってる…?」

自信なさげに尋ねる土方に、銀時はさらに笑みを深くして言った。

「おうよ。実は前から作ったり練習してた。どうやったら酸味と甘いモンが喧嘩しねぇかなあって」
「…俺、」
「うん?」
「自分が食うことしか考えてなかった。…好み、すげぇ違うし。バレンタインだから、せめてお互い好きな物一緒に喰えりゃそれでいいって」
「俺も最初そのつもりだったんだけどよ。
土方があーんなイイ表情(かお)していっつも食うもんなら、俺もどうにか一緒に食べてえなって思ったわけだ。あと宇治銀時丼の素晴らしさも理解して欲しかったし」

だから作ったと言う銀時が愛しくなって、土方は銀時の肩口に顔を擦り付けた。これなら、顔の赤は見えないだろう。
くす、と頭の上で声が聞こえて、土方は顔を上げた。見れば銀時が包み込むような笑顔で自分を見つめていたものだから、なんだか居たたまれなくて土方は顔を逸らそうとした。だができなかった。その表情が自分一人だけのものという事実がくすぐったい。

「ねぇ土方」

銀時は土方の髪を優しく鋤(す)き始める。

「…なんだ?」
「俺のことすき?」
「……ん」
「じゃあマヨと銀さんは?」
「………。」
「オイィィィィ!!!」
「…お前はどうなんだよ」
「土方がいちばんに決まってんだろ」

かあぁぁぁっ
即答した銀時に土方の顔がこれ以上ないほど赤く染まる。

「…わかんねぇけど、わかった」
「なにが」
「十四郎が俺のこと愛しちゃってるって」

惚れた理由なんか関係ない。

今そばにいてくれることが、きみの仕草が、すべての答えだから。






「ちょっとォォォ!?」

結局。
似た者同士の二人は、翌日旅行から帰ってきた従業員たちがソファーでうたた寝する銀時と、その膝枕で寝入っている土方の姿を目にするまでふたりきりの甘い時間を過ごしたのだった。




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