ぎんたま!

□溺れる
1ページ/2ページ


…わっかんねーなぁ。


こいつ、何で俺と一緒にいてくれんだろ。
幾度目かも解らぬ問いを己に投げ掛け、男は常より血色のいい相手の横顔をしげしげと眺める。

真撰組副長、土方十四郎。

泣く子も黙る鬼の副長とうたわれた彼が、誰から見ても犬猿の仲であったはずの彼が、自分と。

「ぎんっとき、ちったあ集中しろ」

そう言って土方はこともあろうに相手の人体の器官で最も繊細にできている箇所を膝で蹴り上げた。
銀時からくぐもれた息が漏れる。それに口の端を上げ鈍く光る眸を見てしまえば、銀時がそれまで抱えていた怒気は一気に霧散してしまった。

「ずりーよ、お前」
「あ?両手がふさがってたんだから仕方ねぇだろ」

悪びれた様子を微塵も見せず作業に没頭する土方に、銀時はため息を吐いた。

「や、そっちじゃなくて。
今も変わらず死ぬほど痛みが響いてて俺じゃなかったら気絶してるって断言できるレベルだしそもそもなんでお前は人の注意引くのに手段が金的なんだよ、とは思うけどね」
「……?他になんかあんのか」
「せっかく怒ろうと思ってたのに、土方がエロい顔するから」

だから、ずりーんだって。

お返しとばかりに銀時が耳元でささやいてやると、土方はふるりと身を震わせた。

「ッ、テんメェ…!」
「おーっと、泡立て器振り上げんなよ。貴重な生クリームが飛ぶだろ。生クリームが」

平然と言う銀時を、今度は土方が睨み付けた。

「…油売ってねぇでお前こそマヨクリームとどら焼の皮は出来たのかよ」
「おう……ってマヨは元々クリームだろうが。どら焼ならもう出来てるよ。小豆も挟んである」
「じゃあ、」
「俺普通にどら焼とかテーブルに並べとくから、それツノ立ったら持ってこいよ〜」

土方が頼むより先に、完成した食べ物の皿やマヨの入ったボールを両手に抱えた銀時はそう言い残すとリビングに消えていった。

「…ったくあの天パは」

急に静かになったキッチンで土方はごちた。
今日、土方は非番を利用して万事屋に来ていた。一日遅れのバレンタインを恋人と過ごすためだ。そうなってしまったのには二つ理由がある。一つは、銀時との関係を知っている一部の隊士に揶揄されないため。もう一つは、銀時の家の従業員ふたりが今日はここを留守にするためだ。
おかげでこうして心置きなくふたりの時間を満喫できている。
いつの間にかリビングからテレビと思われる音が聞こえてきて、土方は止まっていた手を慌てて動かした。





「…マダオは待ても出来ねぇのか」

やっと様になった生クリームのボールを持ったまま呆れて土方がそう問えば、ソファーで正座になって銀時は慌てた。

.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ