ぎんたま!

□午後の紅茶と馬術使い
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総悟は今日やたらと時計を気にしている。そわそわと落ち着かないのも知っている。本人は気づかれていないと思っているようだが、実際のところはバレバレだ。
アイマスクをつけて普段なら寝ころがっている午前中も、縁側にその姿はなかった。かわりに屯所内の廊下の至るところで目撃情報があった。つか、仕事しろ。

副長室の時計を見れば、ちょうど針は真上を指していた。もうそんな時間か。
今日は一日内勤なので、この机上に溜まった書類の山をなんとか目線の高さまで崩さなければ昼飯どころの騒ぎではない。
食堂が空いてる頃に行けば周りの目も気にせずマヨのマヨ盛りマヨソースがけができるのだし、とポジティブなことを考えてみる。であるからして、腹の近くから響く音は、断じて気のせいである。
今度局中法度に付け加えておこうそうしよう。

短くなった煙草を灰皿に押し付けると、新しい紙に手を伸ばした。ふいに心地よい風を頬に感じて首を巡らすと、開いた障子の向こうにサボり魔がいた。

「おーおー部屋が真っ白でさぁ」

こんなに煙たくなるほど煙草ふかしてたら身体に毒ですぜ?

言いながら遠慮もなしにずかずか入り込んでくると、俺の真後ろに回ってどっかと座りやがった。近い。背中にかかる体温で気が散る。そのちゃっかり回した腕を退けろ。

「土方さん、こっち向いてくだせえ」
「仕事中だ、お前に構ってる暇はねぇ」
「仕事が恋人かよ。昼飯もどうせまだなんでしょう。副長がそんなだから周りの奴らが気にするんじゃねぇですか。ちったあ休めよ土方コノヤロー」
「……」
「だんまりですかい」
「……だったらてめーの報告書ぐらいてめーで書け」
「俺が書いても修正が多くて結局アンタの仕事が増えるだけでしょう。二度手間ってもんでさぁ」

無駄な仕事は増やしませんぜ。こう見えて上司想いなんでね。

先ほどの体勢から身を乗り出して、静かにささやかれた。耳元にぬるい吐息がかかる。
だから近いって。

「………わかったから大人しくしてろ」
「俺ァアンタが足りなくて充電に来たんです、」

総悟はそこで一旦ことばを切った。

「─これぐらいいいでしょう?」

聞こえるか聞こえないくらいの拗ねた声が、そっと上から降りてきた。締め付けも、一段と強くなる。

「……」

「……」

「……っ、オイ、総悟」

「…………ぶ!」
「あん?」
「っはは!ははははははは!!っく、引っ掛かってやんのザマーミロ土方だははははは」

背中にかかる振動とぬくもり。ひーひー笑うな馬かお前は。

「今日はエイプリルフールですからねぃ」

──日頃思ってること言えてすっきりしやした。
ぽそりと呟くと、腰に回った腕と肩にかかっていた重みが離れていく。
うつむいた前髪の隙間から目の縁に溜まった涙を拭い去る動作を見せると、総悟はおもむろに立ち上がった。

「んじゃ、俺見廻り行ってくるんで。そんなに働いてねぇでさっさとマヨネーズとニコチン過多でいけよ土方」

「こンの…!」

障子を開け放したまま、そいつはさっさと大股で立ち去っていった。引き留め損ねた。伸ばしたまま空を切るだけに終わった左手で、仕方なく髪をくしゃりとかき混ぜる。


「──ったく、こちとら警察だ。ネタはあがってんだよクソガキ」


じゃなきゃあの鼓動は何と説明する。





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四月馬鹿は午前中まで。馬のしつけは年中無休。

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